開催日時 | 2017年6月24日(土)10:00~15:45 |
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会場 | 兵庫県立六甲山自然保護センター |
講師 | (公財)神戸都市問題研究所 理事長 新野 幸次郎氏 |
詳細 | チラシPDF 報告書抜粋PDF |
市民セミナー報告書より
第130回テーマ
六甲山を市民のものに
- 山と海をもつ神戸の特性
- 大洪水と大震災を乗り越えた神戸
- 日本最大の森林都市を目指して
実施日:平成29年6月24日(土) 午前10時~ 15時00分
場 所:六甲山自然保護センター、記念碑台・散歩道
講師:新野 幸次郎さんプロフィール
1925年鳥取県生れ、(公財)神戸都市問題研究所理事長、神戸大学長を経て、平成3年同大学名誉教授。その間日本経済政策学会会長の他、政府のいくつかの公職を歴任。阪神・淡路大震災以降は、都市再生戦略策定懇話会をはじめ、県と市の復興関係の委員会座長・顧問などをつとめた。
自然体験に30名が参加
午前中の自然体験会には、イベント清掃ぴかぴか隊など30名が参加し、散歩道やまちっ子の森のササ刈りと、散歩道モニターの2班に分かれて活動しました。午後からのセミナーには38名が出席し、熱心に聴講しました。
92歳の神戸っ子で、六甲山の保全を重視
「森林の専門家でございません。鳥取の生まれで、18歳の時からこちらの学校に入り、神戸大学に進み、90歳になるまで神戸で過ごしておりますから、「神戸っ子」と言ってもおかしくない。その神戸で、都市問題研究所のような形で勉強するようになった。神戸にとって一番大事な問題はいくつかある。その中の一つとして、六甲山の経営の問題、保全の問題というのは、本気で、私どもの生活の一部として考えていかなくちゃならない」と、心境を語られました。
進取の神戸は、森林都市の保全も先駆する
冒頭、神戸市の特徴として、神戸開港150年で欧風文化を開化する街という歴史を持っていると述べられました。進取の気性に富んでおり、全国でも初の消費者問題や市民福祉などユニークな試みをしています。宮崎市長の時代に「市民のための行政」を考えて、公社で収益を上げてそれを施設の運営や市内の景気改善に反映しました。市民福祉のための一つとして「しあわせの村」を作って運営したことや、埋め立て事業でも全国や海外からも注目を集めたと話されました。
1995年の阪神・淡路大震災は、初の「大都市直下型地震」で日本災害史に特記される体験でした。昭和13年・42年の大水害もあり、災害の街としても注目されました。大震災の当時、個人のボランティアが活動し、ボランティア活動のあり方を一変して、NPO法案につながりました。
このように、神戸は他の都市の見本になる新しい活動から、大変な災害の象徴になる経験も持ったのです。このころ70歳の新野さんは、震災復興のさまざまな会合のリーダー格として活躍し、現在も震災の教訓を東北や熊本に伝える活動を続けておられます。次いで、日本最大の森林都市という側面を解説されました。森林の持つ7つの機能を紹介され、六甲山の明治35年以来の植林を踏まえて、現在の神戸市の森林整備戦略の展開に期待を託されました。
日本の地形の特徴や国土の保全についての先人の言葉を紹介され、「天災が日本人を素晴らしい国民にした」と強調されました。終盤に、レガシー(遺産)とレージェンド(伝説)を結びつけたストーリー(物語)を作る着想を紹介され、神戸や六甲山に新たな関心を集める提案をされました。
より良い神戸を目指す努力を啓発された
神戸を70年にわたって見渡し、行政の施策にも関わってこられた新野さんから、足元を見るだけでなく、鳥の目で神戸や六甲山を見ることを触発されました。「次の世代により良い神戸にしたい」というメッセージを受け、「目からウロコだ。まだ引退できない」と、エネルギーを注入されました。
詳しくは2ページをお読みください。
参加の感想 北嶋治夫さん
初めて六甲山の魅力に触れるセミナーに参加することができた。六甲山の素晴らしさ、大切さを知り、そして神戸に六甲山が存在していることに一神戸市民として誇りすら覚えたひと時だった。100年余り昔ははげ山だった六甲山。大勢の市民が努力した結果、今は緑豊かな山として蘇った。先人たちの努力に敬意を払い、今後も市民が集い愛される六甲山を後世に引き継ぎ、伝えていく使命感を抱いた有意義な一日になった。有難うございました。
主催:六甲山を活用する会
協力:兵庫県立人と自然の博物館
後援:神戸県民センター、灘区役所、神戸市教育委員会
【助成金をいただいている機関】順不同
大阪コミュニティ財団(東洋ゴムグループ環境保護基金)、
コープこうべ環境基金、セブン-イレブン記念財団、 GGG国立・国定公園支援事業
第130回テーマ:六甲山を市民のものに
第130回市民セミナーの流れ
市民セミナー
1.自然体験:10:00~12:10
2.講演 :13:00~14:20
3.休憩 :14:20~14:30
4.意見交換:14:30~15:00
- 山と海をもつ神戸の特性
- 大洪水と大震災を乗り越えた神戸
- 日本最大の森林都市の繁栄を目指して
講演のあいさつ(新野 幸次郎さん)
経済学が専門で、六甲山だとか地震について専門的な知識はほとんどないといっていいくらいです。神戸都市問題研究所でこの二つとも密接な研究を進めることになり、今日はその一部をお話しします。
1.山と海をもつ神戸の特性
■神戸開港150年
神戸というのは面白い都市で、今年、開港150年になる。全国の都市でも非常に違った、ユニークな仕事をしてきた。開港のために、横浜がアメリカ向けの貿易中心にしたのに対して、米国を除いた西欧のヨーロッパの国々の文化だとか芸術だとか、そういうものを受け止める、あるいは製品や品物を受け止める街になった。欧風文化を開化する街という歴史を持つようになった。
■神戸市は進取の気性に富んでいた
- 消費者問題神戸会議:神戸市は全国の消費者問題の開拓の最初の都市として名乗りを上げた。企業と市民と行政が一体となって消費者問題に取り組まなければならない、三者合意でこの問題の解決にあたらなければならないと主張し、日本全体でも注目をされた。
- 市民福祉振興協会:神戸市のような一地方都市が、福祉条例を作って、市と行政とそれから市民と企業と行政が一体となって市民福祉の問題を考えた。国はやりすぎだと批評し、当初は認めようとしなかった。
- しあわせの村:北区に「しあわせの村」を作り、その中に「シルバーカレッジ」を作った。そして市民福祉の向上のために、市民自らが努力をするという組織も作り上げた。しあわせの村は、他の都市にもない、日本以外の他の国にもないような施設で注目された。私も10年ほど、しあわせの村の村長をした。
■宮崎市長のユニークな仕事
- 市民のための行政:本当の行政というのは、いろんな施設を作っただけでなくて、その施設を運営して市民の幸せを確保でき、その運営が赤字なしに運営できるようにすると考えた。そこで公社を作り、営業成績を上げて蓄積をして、蓄積したお金で景気が悪い時は市内の景気を良くするために、お金を使った。
- ポートピア博覧会:1981年に開催したポートピア博覧会では収益が65億円貯まり、それを基金にいろんな運営のための元手にした。ポートアイランドでやる国際会議に参加する人たちに、援助費を出す制度を作った。開設以来その委員長を私がやらされている。国際会議が神戸でたくさん運営されるようになった。
- 基金の運営:いろんな公社公団を作り、その収益を基金に施設が運営できるようにした。基金から3分の1、3分の1は神戸市が税金の中から負担する。残りの3分の1は、施設の利用費とかで収入を上げる、3分の1ずつで運営する計算をした。
■埋め立て事業
ポートアイランド、六甲アイランドを埋め立て、神戸市が最初にまち作りを始めた。日本の他の都市も神戸市の埋め立て事業を参考にして、埋め立て事業をやるようになった。
- 六甲アイランドの建設:六甲アイランドの建設をコンペで、市がやるのではなくて企業が受け持つやり方になり、積水ハウスがその世話をした。
- 六甲アイランド基金:P&Gなどと一緒になり、8億円の拠金を元に、「公益信託事業」を始めた。六甲アイランドの自治会活動とか、神戸市内で国際的な活動をする団体などに支援の費用を出す。私もその運営委員長をずっと設立以来やらさせていただいている。
民間の企業からの拠金を基に、新しくまち作りし、それ以外の神戸市の国際的な事業について支援をする試みも、他の都市でも非常に注目をされている。
2.大洪水と大震災を乗り越えた神戸
■阪神・淡路大震災の経験
昭和13年と42年の大洪水と、1995年の阪神・淡路大震災を経験し、災害の街として注目されるようになった。大震災の方は、「大都市直下型の地震」としてこれだけ大きな被害をもたらした地震というのは他になく、日本の震災史の中でも特記すべき災害として取り上げられ、地震国としての反省の材料になった。
- 寺田寅彦の警告:昭和10年に書かれた論文、『天災と国防』の中で、日本のような地震大国では、災害に備えて、災害に対応して国民を守り復旧を分担する軍隊を運営しなければならないと書いている。
また、大変な風水害が起こってもそれに耐えて、みんなで団結をしてそれを乗り越えて生きていこうとする努力が、日本人のお互いに助け合い働いていこうとする性格を作り上げていった。「天災が日本人を素晴らしい国民にした」とも書いている。
■ボランティアの活動
当時かってないボランティアの活動が始まった。誰からも言われることが無くて、行ってあげようという気持ちになって、全国から若い人たちが集まってきた。これは日本の歴史の中で初めてのボランティア活動のあり方で、それがきっかけでNPO法案ができて、新しいNPOの活動を法令上も保護しようという体制が全国的にも作り上げられていく。
神戸市が今まで、他の都市が見本にしていたという新しい活動をしただけでなくて、大変な災害の象徴になるような経験を持つようになった。
■震災での関わり
ちょうど70歳の時で、もう大学は辞めていたが、亡くなられた貝原知事に誘われて、「都市問題策定懇話会」の座長をやらされた。震災復興のためには、70歳の年からよく頑張ってきたものだと思う。
- 兵庫創生研究会報告:神戸新聞社から頼まれ、陳舜臣さんたちと一緒に、「兵庫創生研究会」を運営した。いろんな会場に分かれて、報告書を作った。
- 国際検証:国際的に有名な専門家を呼んで、5年目に震災の検証をやった。そして10年目には総括検証というので、10年間での復興の仕事で何が駄目で、何が上手くいったかをちゃんと検証して報告書を作って、今後の震災の災害に備えた。
3.日本最大の森林都市の繁栄を目指して
今から17、8年前、農林水産省の大臣から日本学術会議の方に「地球環境人間生活に関する農業および森林の多面的な機能の評価について」の諮問があり、平成13年の11月に森林の7つの機能の報告書を作った。
■森林の7つの機能
①生物多様性保全機能:虫とか動物とか、生きものが保全をされるような機能。六甲山は、生物保全の多様性が保全されている典型的な山である。
②地球環境保全機能:地球の環境を保全する機能。CO2が全世界で温暖化の問題として取り上げられている。山林を上手く管理すると、CO2を下げ吸収する。
③土壌災害の防止機能:土壌の保全機能というのも森林は持つ。昭和13年の水害後、神戸市はダムを造り、土砂崩れがそこでチェックできるような仕組みを六甲山系で広範に展開した。
④水源涵養機能:水を山林が保全するようにして、川に流していくような機能。布引の滝の辺りで採った水は、南洋を通っても腐らない水だと注目された。
⑤快適環境形成機能:森林というのは快適な環境を形成する機能を持っている。
⑥保健レクレーションの機能:日本で初めて六甲山上にゴルフのコースが出来た。六甲山というのは、山頂が割りに平たく面積があり、いろんな活動ができる。
⑦文化機能:六甲山の森林の機能は、居留地から上がってきたイギリスの人たちが開拓した。外国人が自分たちの生活をエンジョイする場として六甲山を、保健レクレーションとか、文化機能とか、快適環境形成機能とかを開拓する形で変革してきた。神戸の開港と六甲山の開発とは非常に密接な関係を持っていた。
■六甲山の植林
- 明治35年の植林:当時の日本の林学の大家であった本多静六さんが植林の指導を一生懸命やって、今日のような六甲山が出来上がってくる。六甲山は大変な裸山から立ち上がった、涙ぐましいそれまでの市民の努力の結果できたものと考えなくちゃならない。
- 森林王国の都市経営:日本の場合は森林が国土面積の7割ぐらいを占めているので、街の中に森林を作るというあまり大きな試みはしていない。神戸市の総面積のうちの4割は森林でこの六甲山が入っている。こんな街というのは日本でも他に無い。そういう街の中で生活をするとなると、森林は自分たちの生活のそのものを形成しているものになっている。
- 六甲山の森林整備戦略:神戸市が全国に先駆けてやっている森林戦略というのを、どれだけ上手く生かしていけるかということを、神戸でも、日本の全体のために考える必要がある。(松岡氏「木が繁ってきたので、少し手を入れる。木を伐っちゃいけないという価値観を変更しようとしている」と補足)
■国土の安全
- 国土を考える:慶應義塾大学の塾長だった小泉信三さんが「先祖から受け継いだ国土をそのまま次の世代に引き渡すことになったら恥ずかしいことだ」と呼びかけている。これは六甲山の問題、日本の国土の問題を考える時に絶対忘れてはいけない言葉だ。
- 山林の保全:東大名誉教授の太田猛彦さんが『森林飽和』(NHKブックス)で、森林が大きくなり過ぎて、山林の保全ができなくなったと書いている。
■六甲山のストーリーで関心を高めたい
どこでも設備やインフラなどのレガシー(遺産)ができる。それについての話がレージェンド(伝説)になる。これを一緒にすると、ストーリー(物語)が出来上がる。ストーリーが出来上がることで、人々の関心が強くなってくる。そして、その場所なり、施設なりを盛り上げてみんなのものにしようとする動きが強くなる。神戸や六甲山でも関心を高めるストーリーを作り上げたい。
新野 幸次郎:にいの こうじろう
(公財)神戸都市問題研究所 理事長
〒651-0083 神戸市中央区浜辺通5-1-14
電話:(078)252-0984
事務局
市民セミナーの最終年で記念になる講演をしていただきました。参加者一同が、新野さんの含蓄のあるお話と、前向きで元気いっぱいのお姿に感銘を受けました。
◆参考・配布資料など
・配付資料:神戸都市問題研究所メールマガジン「マンスリーレポート」巻頭言~六甲山をみんなの山にする工夫(その1~3)
・参考資料:『都市政策』第149号~特集「協働と参画による六甲山を生かした神戸づくり」(10冊寄贈)
◆参加者の声
・神戸市を世界に注目される街にしたい思いが伝わりました。
・国土を改善し次世代に渡さねば恥である、に感銘しました。
◆参加者:38名(50音順・敬称略)
天野征一郎 伊谷 正弘 井上 幸雄 岡 敏明 岡谷 恒雄 金山 行雄 北嶋 治夫 木下 健二 木村 正典 久保田みつ子
熊谷 正一 黒田美恵子 倉持 隆 小谷 寛和 佐藤 昌弘 島岡 寛 白澤 清子 雑喉 良 高砂 雅人 玉井 誠
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