市民セミナー報告書より
二つ池には卵塊がいっぱい
午前中に8名が環境整備の定例活動を行い、二つ池のモリアオガエルの卵塊も調査しました。上池40個、下池38個の合計78個を確認しました。
朝は曇り空で20℃と温かでしたが、午後から霧が出て、セミナーの後半は風雨が強くなりました。
西谷さんはエコライフの実践者
神戸市の環境評価共生推進室長として、環境行政の仕事に携わっておられる西谷さんは、明石市朝霧のご自宅でエコライフを実践されています。太陽光発電を導入し、庭や壁面ではゴーヤ、ブドウ、山の芋、柑橘類等を作っています。住宅地の中で虫が集まり、蝶が卵を産み、沢山の鳥が集まります。学生時代に魚の研究で口之永良部島に滞在し、信号・警察・医者の3つが無い「足るを知る生活」で自然と向き合う生き方を考えたのが、原点になったとのこと。根っからのエコロジストです。
生物多様性の危機と環境保全活動の広がり
講演でエコライフに親しんでいる自己紹介をされ、周到に用意されたスライドで、神戸における生物多様性に関わる話題を次々と説明されました。
危機にある神戸の生物多様性と題して、神戸は六甲山を中心に森、川、ため池、里山や海浜があり、多様な生きものが棲息している、豊かな環境であることを力説されました。そして、「都市化による緑の減少」「自然の質の低下」「外来種による在来生物の駆逐」「温暖化の危機」の4つを説明し、自然体験の乏しい世代の「学びの危機」にも言及されました。
続いて、「いつまでも身近な自然の残る街」神戸を念じて、「守りたい神戸の生きもの百選」の選定を進めた経緯と、パンフレットの内容を紹介し、その活用も推奨されました。さらに、神戸は学校ビオトープが100もあって日本一多いことや、環境教育の拠点づくりが広がっていること。生物多様性を支える環境保全や環境学習について、進展しつつある市民参加の活動に期待を託されました。
最後に、『海と空の約束』という絵本を出版し、紙芝居で啓発活動を展開し続けたいと大きな抱負を語られました。
生物多様性の保全は一人ひとりの課題
生物多様性について、多くの実践例でわかりやすく説明された。私たちの生活自体が原因になっていること。そして、市民活動への期待や、子どもたちの将来への不安など。当事者として直視する必要を大いに喚起された。初めてお願いした神戸市の「出前トーク」は内容が充実していました。感謝!
講演内容
講演の挨拶(西谷 寛さん)
神戸市環境局で環境アセスメント、モニタリングをしています。神戸の生物多様性の保全に直結する仕事で、市民の皆さんと一緒に何ができるかを考えています。今日は神戸市の出前トークとして、生物多様性についてお話しします。
1.危機にある神戸の生物多様性
■生物多様性とは
神戸市は大都市だが、六甲山を中心に森、川、ため池、里山や海があり、多様な生きものが寄り添い繋がりを持って生息している。環境によって生きものの個性も生まれ、それが地域の環境の豊かさを生んでいる。私たちの生活が生物多様性のめぐみによって作られ、守られている。
■私たちの生活が生物多様性を損なう
昭和50年代からの都市化による環境問題(クルマ、ごみ、ヒートアイランド)に、近年は地球温暖化の問題が加わった。神戸市は百年間で平均気温が1.5℃上昇した。今日の問題はエアコン等での便利で快適な市民生活が原因である。私たちは「世界の資源を食べている」自分のこととして考えたい。
■生物多様性をめぐる危機
①「都市化による緑の減少」、里山、農地がほったらかしの自然になる②「自然の質の低下」、③「外来種による在来生物の駆逐」や人への被害等の問題が起こっている。
また、オニヤンマと思ったらタイワンウチワヤンマだったりと、④「温暖化による危機」も忍び寄っている。
さらに、「学びの危機」がある。若い先生や子育ての世代が自然の中で遊んでいない。自然を体験していない親達に教えられた子供たちが将来、河川改修や都市設計に携わったとしたら環境設計はどうなるか。
2.「守りたい神戸の生きもの百選」の選定
■ツバメに見捨てられない街にしたい
神戸の生物多様性は危機にある。西区ではツバメが巣を作っているが、巣作り用の泥がない元町や三宮はツバメに見捨てられた街になった。神戸をツバメの棲む街にしたいとの想いから、市民から「子供たちの未来に継承したい生きもの」を公募し、約5000件が集まった。神戸の生物多様性を知ってもらえば観察会や市民活動へ参加する子供や市民が増える、との想いで「守りたい神戸の生きもの百選」(表紙に写真を掲載)に繋いだ。
■生きもの百選を片手に現地に出かけてほしい
めずらしい生物だけでなく、身近で親しみやすいものも選定した。六甲山で生息するモリアオガエル、雑木の繁茂で少なくなったササユリ、南の使者ツバメなど、多様な生きものを選定した。神戸市公式サイトにあるので、これを片手に、現地に足をのばしていただきたい。
■生物多様性神戸戦略へ
神戸市では生物多様性神戸戦略を策定中である。生きものとその生息環境を保全し創り上げていくこと、身近な緑や水辺環境の保全とふれあいの場の整備、環境教育、外来生物の防除を骨子とし、エリア別の課題をあげ、対応策を策定する。
3.どんどん拡がる環境保全の市民活動
■川や海浜での取組み
神戸空港やポートアイランドでは緩やかな浅瀬を作る傾斜護岸工法をとった。ここに海草が増えると魚も棲みやすく、海水浄化にもつながる。海の環境は六甲山-川-海浜の取組みと一体となって守っていく必要がある。それぞれの水系で川や水辺を守る市民活動があり、行政と市民が一緒にやる仕組みができている。
■ビオトープの取組み
学校ビオトープは100を越え、日本一のモデル事業と自負している。須磨・横尾小学校では地元企業や地域の人の協力で作った。こうすると意欲のある人やその道の専門家が集まって、先生任せにならず長続きする。また、松本地区や多聞台小学校では、街のちょっとしたすき間にせせらぎをつくり、まちかどビオトープとした。地域の生物多様性の保全になる。地区の人々も集まって交流の拠点にもなってきた。
■環境教育の拠点作り
こうべ環境未来館を作って拠点とし、ビオトープで体験学習や指導者育成を行っている。体験学習は「教える」のでなく、自由に魚を取って分からないことを質問させ、自分で見て・触って・考えるようにした。
住吉川や都賀川を始めとする各地区の市民団体と連携して観察会やビオトープ講座、指導者研修会を行っている。地区の環境教育拠点にもなっている。
■子供たちが自然を体験する大切さ
生物多様性保全は日頃関心のなかった一般市民が動きだすのが本物である。幼児体験の重要さも痛感しており、子供たちにどうやって伝えるかに腐心している。子供たちが親や地域の人たちと一緒に参加してくれたらよい活動になる。
■「海と空の約束」の心を子供たちに
六甲山から海に流れる水をきれいにする物語を作り、『海と空の約束』という絵本にした。「空のエコ図書館」として使えるよう航空会社に絵本を寄付した。環境意識の高い企業も積極的だ。教育委員会は「海と空の約束」賞を作ってくれた。紙芝居も作り、図書館など47箇所に配った。
仕事と対の柱となる、エコ・ライフワークとして子供の心に響くことをやり続けたい。
質疑応答
恋人岬にザリガニ釣りに行ったが工事中!:
外来種のザリガニをゼロにしたい事もあって、ザリガニ目当ての市民の足が遠のいた。市民が参加しないと低調になる事例だ。
まとめ(西谷さん)
環境知識はインターネットで簡単に得られますが、知識だけでは感動もなく、環境問題の解決にはつながりません。生活の中で興味をもって、見て・学んで・動く事が大事です。ビオトープの活動は7年目に入りました。自分でやってみる事が重要です。行政も一歩踏み出す必要があると思っています。
事務局より
神戸市の出前トークのお世話になりました。課長級以上の行政マンが市民や地域と関わる適切な施策だと実感しました。当会が進めている「二つ池環境学習林」は六甲山上のビオトープです。生物多様性の保全につながる活動を推進します。