参加申し込み

市民セミナー報告書より

猛暑の六甲山で熱心に参加

午前10時の記念碑台は晴れで30℃、下界の猛暑に巻き込まれました。環境整備の定例活動には11名が参加し、第2期アセビ実験区の樹木調査などに汗を流しました。
午後の市民セミナーには25名が参加し、銘酒「灘泉」の試飲もあって盛り上がり、質疑応答に熱がこもりました。

昔ながらの酒造りを続ける泉さん

講師の泉 勇之介さんは明治時代に創業した「灘泉」の3代目です。「灘泉」は灘五郷の一つの御影郷(みかげごう)にあり、石屋川の河口に位置しています。平成7年の阪神大震災で灘の酒蔵は壊滅的な被害を受けました。「灘泉」は壊れた2階部分を修復して、唯一の木造酒蔵として復活しました。泉さんは杜氏でもあり昔ながらの伝統を活かした酒造りに注力されています。< /br> 話しぶりは控え目ですが、酒蔵の風情を守り、銘酒を造り続ける信念がうかがえます。復活した酒蔵の2階には貸し舞台も用意されており、涼しい時季になると、演芸愛好グループなどが催しで活用しています。

日本酒を造り飲む文化の伝承

市民セミナーの冒頭で」、六甲山の宮水について紹介されました。ミネラルを含む硬水で、3~5mの浅井戸であること、山麓の急峻な7つの河川についても知りました。< /br> 続いて、灘の酒造りの特長として4つ。宮水の発見、良質の米、杜氏の存在、そして立地や気候風土が全国一の酒どころにしていると説明されました。< /br> 次はご専門の酒造りのお話しです。世界の3つの醸造方法のうち、日本酒はもっとも複雑な「並行復発酵」であること、それは遠い先祖の知恵で日本の文化だと強調されました。< /br> 日本酒の造り方は動画で段階的に解説していただきました。さらに日本酒の味わい方や、ガン細胞の抑制効果にも話題が進みました。銘酒「灘泉」3種の試飲もさせていただき、「酒は百薬の長」と日本酒の良さを再考しました。< /br> 灘五郷唯一の木造酒蔵である「灘泉」と一帯の様子、そして、昭和30年代の風景も説明されました。鉛筆スケッチ画で有名な浅井審一さんが、震災前に描かれた木造酒蔵のスケッチ画数点をお持ちになって紹介されました。参加者が酒蔵の風情を残すことの大切さを痛感しました。

素朴な酒造りと木造酒蔵に共感が集まった

泉さんは時代の変遷について「大量生産・大量消費が果たして良かったのか?」とつぶやかれました。昔ながらの酒造りを続け、木造酒蔵を復活された背景には、時代を超えていこうとする気骨がうかがえます。ほろ酔い加減?の気分を満喫しながら、伝統産業や地域文化を大切にすることも啓発されました。

講演の内容

講演の挨拶(泉 勇之介さん)

 こういうお話しはほとんどしたことがございません。打ち合わせの際「話が持たない」といったら、資料を揃えていただきました。2時間ほどのビデオとお酒も持ってきました。

1. 六甲の宮水が生命線

■六甲山の宮水は浅井戸

 酒の仕込みの水は河川の伏流水。層が二つ、その間に粘土質があり、井戸水は粘土の上層部を流れている水だと考えられる。六甲山は花崗岩質でミネラルを含み、灘の水は
硬水(カルシウム-イオンやマグネシウム-イオンの含有量が多い)で、お酒の発酵に非常に良い。井戸の深さは3m~5mと浅い。海岸部でも、六甲山からの水圧が非常に強く海水の塩分は混入しない。

■水質を守る

 上流部の開発、マンション群や地下のトンネルなど、水脈が浅いために工事の影響を非常に受けやすい。灘五郷の酒造組合の水部会がいつまでもこの水が続くように水質管理に取り組んでいる。水を一番使用する大事な時期はお酒を作る冬なので、建築会社に夏の間の工事をお願いしている。

■六甲山麓の河川

 六甲山麓の河川は急流で水害もある。急流を利用して水車の精米をしたので、お米の高精白につながった。灘の宮水と相俟って美味しいお酒ができた。東から夙川、芦屋川、住吉川、都賀川など7つの河川。度重なる水害で地面がどんどん高くなり川底が上がった。石屋川のトンネルが日本で最初の鉄道トンネルで、明治7年に開通した。

2.「灘泉」の創業と銘酒造り

■灘の酒造りは江戸時代に発展

 古くは縄文時代からこの辺でもお酒をつくっていたようだ。今のお酒の格好になってきたのは室町時代ぐらい。朝廷もお酒を材料にして負担金みたいなことをやっていた。江戸の中期のはじめぐらいから、灘の地方のお酒が発展・発達した。まず陸路が整備され、江戸へ船でお酒を送れる手段が起こってきた。船にゆさゆさ揺られて、灘のお酒がよそのお酒と比べて美味しかったので、取り合いになった。

■灘の酒づくりの特長

宮水:櫻正宗の山邑太左衛門さんの何代目かが宮水を発見した。西宮と魚崎に蔵が両方あったが、西宮のほうが美味しいお酒ができていた。ある年に杜氏さんを入れ替えて較べたが、それでも西宮の方が美味しかった。本当の灘の宮水は、えべっさんの近所のごく狭い地域のことをいう。
米:播州米とか、商都大阪にはいろんな良いお米が集まってくる。水車で精米して高精白ができる。船で江戸に送り大量生産して、江戸時代にどんどん発展して現代に至っている。
杜氏:酒造りが繁盛してくると、各地で蔵人の職人集団ができた。南部杜氏、福井とか越後、岡山の備中、兵庫県は丹波・但馬の杜氏集団など。灘の場合は丹波から歩いて1日の行程。近くでそういう集団が沢山いたのが灘にとってよかった。
気候:六甲山からの北風、六甲おろし。小さい時から住んでいるけどきつい風、気温はそう低くないが体感温度は寒かった。その風を利用して、建物は東西の棟で、窓は南北につくって、蔵の中を冷やす。立地・気候風土全てが灘のお酒には向いていた。それで全国一の酒どころとなった。

■3つの醸造方法

 醸造方法、発酵の仕方は世界中で3種類ほどある。
単発酵:ワインなどのぶどう酒、果実酒はもともと糖分があり甘味がある。それに酵母がとりついて分解すればアルコールになる。単純な発酵で、それを蒸留したのがブランデー。
単行複発酵:ビールの場合は麦では発酵しないので、いったん麦汁という糖に変える。麦汁に酵母がとりついて分解アルコールになり、その際にガスも一緒に残る。麦汁に帰る発酵と、麦汁からアルコールに帰る発酵の二つ、それぞれ別々にやる。
並行複発酵:日本酒の場合はもっと複雑。お米は澱粉を糖分に変えないといけない。麹の力で澱粉を糖分、アミラーゼとかプロテアーゼに生成して糖分にする。その糖分を酵母が分解してアルコールができる。ビールは別々だが、日本酒の場合は並行して、同時に発酵する。この造り方は世界中で日本酒だけ、日本の文化だ。

■日本酒の造り方

精米:玄米で仕入れて精米する。大吟醸は50%、吟醸60%、本醸造・純米は70%以上に磨く。高い酒をいい酒というのはメーカーの自己満足。
米蒸し:白米にしたもの10kgのザルに入れ水で洗う。蒸気を通して1時間蒸している。
麹造り:30℃くらいに冷まして麹室に取り込み、麹を造る。約48時間、足かけ3日かかる。
もと造り:麹に蒸米と水を足し酒母(もと)を造る。もろみの10分の1、もとが約2週間かかる。
仕込み:もとを大きなタンクに移して、麹と蒸米と水を加えて、もろみを仕込む。3回にわけると3段仕込み。留めまで入って終了。4~5日すると泡がぶくぶくするので消す。良い香りがする。20~25日でお酒ができる。
漉し:濁り酒を網で漉して、お酒として売れる。
酒しぼり:酒粕とお酒に分離。65℃ぐらいで殺菌して酵素類を止めて貯蔵する。夏を越えるとまろやかになって美味しい。灘のお酒の特徴で、秋上がりとか秋晴れという。

■日本酒の味わい方

 小さい盃でゆっくり飲んでいただきたい。料理と交互に、時にはお水でおなかを薄めながら。お燗の温度によっても味が変わる。日本酒が敬遠されている原因として健康的なイメージが誤解されている。お医者さんが焼酎は良いけど日本酒は糖があるからあかんというのも困る。原因はカロリーだから蒸留酒もカロリーはある。

■日本酒でガンが死滅!?

 日本酒はガン抑制効果がある、どの成分が良いのかはまだ明らかになっていない。日本酒の飲酒人口が多いところはガンが少ない。(「日本酒でガンが死滅!?」/「噂のファイル」収録)

3.灘五郷唯一の木造の酒蔵

■石屋川沿いに南下

 阪神石屋川駅から南に約10分下ると、「灘泉」に着く。海寄りの南側は「波返し」になっていて、台風が来たら跳ね返すようになっている。石屋川は大雨が降ると30分くらいで鉄砲水が出る。

■コンクリートの柱止め

床が水浸しになるので、土間の置き石に変えてコンクリートで止めた。そのおかげで阪神大震災でも突き上げられず、1階部分は残った。

質疑応答

日本酒の香りの選定は?

 香り、味、色の3種類。香りは50種類の用語がある。味は49種類、色は29種類。日本酒はなんぼ美味しいのでも、あら探しをする。

外国向けには?

アメリカの場合は、アルコールを添加したら税率をあげられる。純米酒を出さないといけない。

まとめ(泉さん)

 居眠りされている人もいらっしゃいませんでした。みなさん勉強熱心なので感服しました。

事務局より

 美味しいお酒もいただいて、日本酒文化の復興という刺激を受けました。貴重なものを継承して残すことを学び、勇気づけられました。