市民セミナー報告書より
今期初めて地域福祉センターで開催
12月から神戸市立六甲山地域福祉センターに会場を移しました。前日は一番の冷え込みで最低気温は-7℃、日中も氷点下の寒さだったとのことでした。午前中の環境整備は11人が参加し、定例の観察に加えて、第1期調査区・第2期調査区で、検土杖・硬度計・水分計を使って、土壌の状態も調べました。気温は2.4℃と寒さが少し緩んでいました。
アナログ人間を自称する宮崎さん
宮崎さんは子どもの科学教育で活躍され、その指導ぶりは「教えないで関心を引き出す」のが特徴です。
昆虫の活動が低調な冬季の話は難しいと言いつつ、参加者の関心を高めるために様々な準備をされました。昆虫や食草の写真パネルを数十枚持参されて「私はアナログ人間」と言われたので、スライド作成を買って出ました。写真については、「日の丸写真だ」(対象物をまん中に置く構図、芸術的ではない)と冷やかされると苦笑されました。
スズメバチの巣や様々な生きものを持参され、ウツギや竹で笛を作って演奏もされ、行き届いた配慮をしていただきました。
冬を過ごす「いのち」の営みに感激した
序盤はスライドをもとに、テーマにちなんで、中国から神戸に渡来したキベリハムシ、アリマウマノスズクサを食草とするジャコウアゲハの幼虫から成虫の話をされました。
続いて、昆虫の冬越しには、卵での越冬、幼虫での越冬、サナギでの越冬、成虫での越冬という4つのタイプがあると説明されました。4つのタイプで越冬する代表事例としてチョウの冬越しについて解説されました。オオムラサキの幼虫から成虫、ギフチョウのサナギから成虫など、美しいパネル写真も見せていただいて見とれました。
さらに、卵で越冬するオオカマキリの卵塊やウツギの枝の中で越冬する蜂。幼虫で越冬するカブトムシやクワガタムシ。幼虫で越冬するキリギリスとコオロギの両方の特徴を持つコロリスの生態を印象深く説明されました。大きなスズメバチの巣も冬には空になり、女王蜂だけが成虫で越冬することを紹介されました。終盤は持ってこられたホダ木や腐葉土の中にいるカブトムシなどの幼虫を取りだして、冬越しの実態をわかりやすく説明されました。皆さんは写真や実物を回覧しながら、虫の世界に感動しました。
昆虫や食草の世界から冬の季節を実感した
温かい部屋に居ながらにして、虫の冬越しを目にすることができました。小さな虫たちが命をつないでいくために、工夫をこらしている様子がよくわかりました。忘れがちになる季節感を思い起こすことができました。
講演内容
講演の挨拶(宮崎 敏弥さん)
神戸小動物研究会を主宰し、毎年、夏休みに神戸っ子ランドで昆虫展をしています。今日は神戸、六甲山にかかわる昆虫類と食草や、昆虫の冬越しについてお話しします。(スライドを中心に説明)
1.神戸ゆかりの虫たち
■クローンで増えるキベリハムシ
中国から雌だけが渡来し、雌だけで繁殖する単為生殖で雌は自分の遺伝子をもったものしか産まない。中国では普通に雄と雌が交尾して繁殖する。キベリハムシはビナンカズラ(別名サネカズラ)を食草にし卵で冬を越す。キベリハムシは飛べないが、今では淡路島を除く県内に拡がっている。人為的に拡がったと思う。
■アリマウマノスズクサとジャコウアゲハ
六甲山特有のアリマウマノスズクサを食草とするのがジャコウアゲハである。幼虫は白、黒、赤の派手な警戒色をしている。また毒をもっていて食べられないようにしている。成虫のは黒い体に赤の線が入って毒々しい色となる。
2.昆虫の冬越しの4タイプ
■冬越しの理由と4つのタイプ
昆虫は春、夏のものと思いがちだが、冬でもしっかり生きている。冬になるとえさになる植物も活動を停止して落葉したり枯れたりする。肉食昆虫のえさになる草食昆虫もいなくなる。また、昆虫は変温動物で自分では体温が調節できず、寒くなると体温が下がって動けなくなる。
種類に応じた色々な方法で冬を越し、翌年にまた姿を見せてくれる。冬越しには大きく分けて表の4つのタイプがある。
■チョウの冬越し
チョウはサナギで越冬するのが普通であるが、種類によって4つのタイプで越冬するので代表事例として紹介する。
卵で冬越しするミドリシジミ:晩秋にクヌギ等の枝に産卵し、春にふ化、幼虫は新芽を食べて成長し脱皮して夏には成虫になる。
幼虫で冬越しするオオムラサキ:初夏に産卵し、幼虫はエノキの葉を食べて成長するが、2~3令幼虫で冬を迎えてしまう。幼虫で冬になると食物がないので、たまった落葉に付き、口から糸をだして体を葉に固定して冬を越す。エノキは群立ちし、幹のすき間に落葉がたまって、そこにオオムラサキの幼虫が入る。夏は緑、冬は褐色の保護色を持つ。
サナギで冬越しするアゲハチョウ:夏に何回か産卵して幼虫-サナギ-成虫になる。サナギで冬を越すが、サナギは石や塀など大きいものに付く。夏のサナギは緑やベージュの保護色だが、冬はグレーになる。
モンシロチョウ:同様にサナギで冬越しをする。
ギフチョウ:早春に羽化し、体温保護のため毛深い。6月には早くもサナギになり、翌年春に孵る。ギフチョウはヒメカンアオイを食べる。
成虫で冬越しするチョウ:ルリタテハ、ウラギンシジミがこれに入る。春に活動し、さっそく産卵、ふ化した幼虫はどんどんエサを食べて成虫になり3~4世代交替して秋には冬越しの準備をする。
3.さまざまな虫の冬越しの仕方
■卵で越冬する虫
麩のようなオオカマキリの卵塊:尻を上に逆立ちして卵を生む。卵塊は木の幹にとりつくのが多い。空気をためて断熱性で、中の卵を保護する。中には、200~300コの卵がある。幼虫も肉食で、自分以外の動くものはすべてエサとして認識し、すぐに共食いを始める。食べられないために、生まれると一斉に散らばっていくという習性を持っている。
ウツギの空洞で越冬する蜂:ウツギは茎が空洞で、節を利用して部屋を作り、アオムシを取り込んで卵を産む蜂がいる。これを繰り返して3~6部屋を作る。出口をふさがないため、後から生んだ卵ほど先にかえる。
■幼虫で越冬する虫
冬のホダ木ではカブトムシ、タマムシ、カミキリムシ、コメツキムシなどの幼虫が越冬する。
コメツキムシ:幼虫は細いビーズを繋ぎ合わせた姿で、頭もお尻も同じ太さで脚もない。クワガタムシやタマムシの幼虫を食べる天敵である。
キリギリスの仲間:コロギスはコオロギとキリギリスの両方の性質を持ちコロギスと名づけられた。口から粘液を出し、葉を丸めてその中で冬を越す。成虫は巣の中に隠れて夜になって肉食活動する。体の数倍もある長い触角をもつ。
■サナギで越冬する虫
前項目の「チョウの冬越し」を参照してください。
■成虫で越冬する虫
スズメバチの女王バチ:冬になると新しい女王バチが巣から出て樹の穴、皮のすき間などで越冬するが、他のハチは1年で死んでしまう。巣では一匹一部屋で、徐々に部屋を増やして1年で使い捨てとなる。肉食であるが樹液も大好きだ。
ミツバチ:ミツバチ、カメムシ、テントウムシやオオカブマダラは集団で越冬する。
クワガタムシ:オオクワガタやコクワガタは新成虫で越冬、翌年活動し、また成虫で木の中で越冬する。これを2回くらい繰り返す。木を食べる幼虫は、土系のエサを食べている幼虫よりもきれいで透けて見える。木を食べている幼虫は糞の色も薄い。
質疑応答
キベリハムシは中国の雄と日本の雌は交尾して繁殖できるか?:
大陸と列島で媒質体が変わって固有種に近くなって、繁殖は難しいかもしれない。
ホダ木でのカブトムシの養殖は?:
猪名川の椎茸栽培農家で養殖している。約1m(椎茸のホダ木の長さ)×6mを2列くらい。
まとめ(宮崎さん)
虫は特有の食草を持ち、工夫しながら越冬します。すべては子孫を残すためで生命の偉大さを感じます。来年も夏休みの昆虫展で、標本や生きた虫を集めて展示します。気楽にお出でください。
事務局より
宮崎さんには講演のための準備に大変なご足労をおかけしました。お手伝いいただいた久門田さんにもお礼を申しあげます。おかげで皆さんは昆虫少年が楽しむ世界に導かれて感激しました。
様々な虫たちが冬を生き抜いて、命をつなぐ営みを続けていることを知りました。私たちが季節感を失いつつあることを再認識しました。自然を見つめるまなざしを大切にしたいと思います。