市民セミナー報告書より
地域福祉センターの外は吹雪
六甲山上は曇りで-2℃、薄く雪で覆われていました。午前時10時7名がガイドハウスに集まり、定例観察調査を行いました。六甲山地域福祉センターへの移動は会員の小室さんの車のお世話になりました。午後、センターの窓からは吹雪模様で、帰り道を心配しつつ講演を楽しみました。
「人・暮らし・自然」がテーマの先駆者
今西さんに市民セミナーの講師をお願いし、今西さんのNPO法人の活動ぶりが、明確なビジョンを持って幅広く展開されていることに目を見張りました。構成員は7名で始めて32名に成長し、7割が教員とのことで、各自が専門性を発揮される仕組みを工夫されています。
3年に1冊の本づくりを目標に掲げて地道な調査を重ねるのが柱で、武庫川・猪名川・揖保川・大和川など特徴的な河川流域の報告書を4種発刊し、35000冊を小・中学校に寄贈されました。また、三田で3haの土地を借りて、里山保全運動にも力を注がれ、平成16年に環境省の里地里山再生保全モデルに指定されています。ブラジルにおける国際協力事業も続
武庫川流域調査から六甲山の自然の話
セミナーの冒頭で「野生生物を調査研究する会」の広範囲な活動を紹介され、参加者はその話を聞くだけでも大きな価値があると関心を高めました。
本題として武庫川の調査について、説明されました。①武庫川とは、②武庫川流域の気候、③武庫川の特徴、④武庫川の水質、⑤下流域の川原、⑥武田尾渓谷、⑦三田盆地の流れ、⑧神社、社の林、⑨里山、と項目立て体系的に話されました。
河川の流域の自然景観の特徴を理解し、生物の様相を知り、さらに里山における人の暮らしと生き物との共生に目を向けていきました。壮大な自然の絵巻物を示され、見られなくなった希少生物への愛着で思わず声を高められたので、共感しました。
終盤は各論として六甲山の、特徴的な植物やサワガニの調査など、珍しい話を披露されました。
調査・研究主体の広い活動に敬服
「河川流域の調査・研究」が、「人・暮らし・自然」という全体観を育んでいく道になることを実践されていることに、参加者全員が感銘を受けました。環境保全活動のあり方をモデルとして啓示されたようで、学ぶところが大変多く、今後の活動を期待していきたいと思いました。
講演内容
講演の挨拶(今西 将行さん)
平成2年から野生生物を調査研究する会を立上げ河川流域を中心に調査・研究してい
ます。今日はケーブルカーも寒さでキシむ象徴的な日に六甲山にきました。六甲山とも
関係の深い武庫川と里山の生物を中心にお話しします
1.武庫川流域の調査の今と昔
■活動は武庫川から始まった
1992年から武庫川を最初に調査し、ここを基本にして猪名川や揖保川を比較した。また、日本で汚い川ワースト3に名を連ねていた大和川を調査し、「生きている大和川」との本を作ったことで「下水道の普及が促進した」と大阪府下水道部にも注目された。また、関西一きれいな由良川を調査し、2008年に「生きている由良川」を作り、2008年から関東の汚い川でありながらタマちゃんが来た鶴見川を調査し、なぜ、タマちゃんが来たのか・・川は死んでいるのでなく生きているのが分かってきた。今年はその本を作る。
■武庫川は魚がおもしろい
武庫川は六甲山の隆起で道場付近の地形を破壊してできた。篠山から三田までほとんど高低差がないが、道場付近では急流で溶存酸素が多く、汚濁を処理する微生物が増えてくる。
武庫川に多かったタナゴ類は進化した魚で、卵をとられないため2枚貝の吸入管に卵を産み付け、ふ化する。この川の特徴的な魚のアブラボテ等がいるが激減している。
■武庫川流域の里山を再生する
●日本文化を育んだ里山が放置された
人が山の手入れをして生活域として里山ができた。定住のため裏山も利用する仕組みを作った。 燃料ガスや化学肥料を使い始めて、柴や落葉など山の産物が不要になり山林の放置につながった。
三田で昭和50年頃放置された3haの土地を借りて里山保全活動をしている。そこは古くからの水道(みずみち)として田畑に水を供給するためのシステムがあった。水道は上から順に水を流し小さな池を無数につなげて水を補充していく構造で、そこにはドジョウ等多様な生きものがいて、それが人の生活につながっていた。その仕組みが崩壊した。農業の効率化と省力化のために土地改良を進めた結果である。
●昭和40年代の姿を目指す
当会の里地里山活動は昭和40年の航空写真で見られた景観を作ろうとしている。平成
10年から、背丈程あるササを刈ればどうなるか5年間調べた。
5年後には1.7倍くらいのササユリ等植物が花を付けた。本来は花をつけられる植物が、下草刈りを進めたことで開花をうながした。
●里地の湿地帯がおもしろい
三田盆地の湿原は、山からの湧き水が流れてできた湿地と、棚のような田んぼから漏れて流れる水による湿地の2種類ある。三田・皿池湿原が前者で、植物の3点セット(サギソウ、トキソウ、ミズトンボソウ)が揃っている。後者も多様な生きものが生息する温床である。それが三田の湿地であり当会の携わる里山にもある。
●里山の存在が生物多様性につながる
何千年と人が山林にかかわってきたことで現在の里山がつくられた。まさに日本の文化ではないだろうか。そこには多種多様な生物が生息する。里山は日本のホットスポットです。里山のすごいのは、そのホットスポットが北は北海道が南は沖縄まで地域の特徴的なホットスポットが存在することだ。
2.六甲山における自然の変化
■六甲山は照葉樹林化している
六甲山には、ブナを初めとしては落葉樹林と照葉樹林がバランス良く成育環境を作っている。しかし、この20年間の間にすこし様子が変わってきた。照葉樹林が優勢種に変わってきたように思われる。その象徴的なのはブナの発芽が見られなくなったことだ。温暖化がヒタヒタと六甲山にも押し寄せてきたのだろうか。林床に咲くランも少なくなった。六甲山が暗くなったのが原因と思われる。六カ所のミヤマウズラを追跡調査しているが、大変、減少している。六甲山には何処にでもあったランであるが、原因は林床が暗くなったことかも。
■震災は動物にも被害をもたらした
六甲山で12年にわたりサワガニを調査しているが、サワガニも震災で湧水がなくなったことで半分になってしまった。
■人間の行状も生きものを追い詰めた
ヨタカが夏になるといつもフクロウと一緒に泣いていたのが、北六甲有料道路の工事後全くなく声をきかない。おそらくいなくなったようだ。また、サワガニも震災後さらに激減した。これは甲殻類が好きなアライグマのせいではないか。
六甲山のヒカゲツツジも、人に採取されたり、砂防堰堤工事で大変少なくなってきている。
ぜひ、みなさんもサワガニなど身近で興味のある生物を追跡調査して生息変遷を確認されれば良いと思う。生息環境の変化が私たちの生活と照らし合わせれば面白い。
3.野生動物をめぐる会の活動の方向
■人と暮らしと自然に関わっていく
野生生物だけの調査でなく「人とくらしと自然の関わり」を基本として、歴史的な背景や民俗学的な背景まで調査して、3年後に野外学習用副読本を作成する。今までこの本を五河川流域(武庫川、猪名川、揖保川、大和川そして由良川)の小~中学校に3500冊を寄贈した。これを環境学習に使ってもらうのが活動の柱である。
■世の中に関わっていく
他団体のナチュラリストクラブや企業のCSR活動と協働で参加者に下草刈りなどとおして、里山保全を肌で感じて理解してもらう。
子供たちに影響を与える学校の先生対象に短期セミナーも行う。受講者が学校で広めるのを強化するため、大学とタイアップして先生の卵に参加を求めた。2年めで50人になり、根づいてきた。
■国境を越えての関わりを持つ
ブラジル・パラ州で9年前から「アマゾン自然学校」や林野庁ととともに貧困からくる
焼き畑農業からの脱却に向けて現地のカウンターパートとともに農業技術の指導を行って
いる。その指導する農法は「アグロフォレストリー」といい1年目から収穫を上げられる農業で生活の安定をはかる。それには果樹を売る安定市場の仕組みも構築や、3年でカカオが収穫できる環境整備をおこなっている。
質疑応答
里山の状況は我々も見学できるの?:
ナチュラリストクラブに登録ください。ただ大勢で来ると生態系を損ない、地元の生活を乱すことになる。地元自治会と事前合意しているので、これを冒さないのは信頼のもとです。
まとめ(今西さん)
六甲山の水生昆虫は表六甲と裏六甲では違うが、水質によるのか確証がない。興味を持って調査をしている。皆さんには自分でポイントをきめて定点観測を勧めたい。変化を捉え、それが何に起因するのかを推測してほしい。
事務局より
方向と広がりを持った素晴らしい活動をされている。当会が着手している二つ池環境学習林の保全・整備についても大きな示唆を与えていただいた。指導や助言をいただきながら、定点観察・観測を着実に進めていきたい。