市民セミナー報告書より
まちっ子の森と散歩道を散策
年4回開催の新シリーズ2年目の市民セミナーに、35名の参加者が集まりました。
「春の六甲で木の花を見てみよう」という恰好のテーマで午前中は野外観察し、午後は講演を受講するという内容豊かな1日です。
高橋さんは7年ぶりのご登場
県立人と自然の博物館の研究部長の高橋 晃さんには、2006年4月の第37回市民セミ ナーで「六甲山の早春の植物を見てみよう」で、「スプリング・エフェメラル」(春の妖精)をご紹介いただきました。
また、当会が事務局を担っている六甲山環境整備協議会の幹事として、環境調査や整備活動にご指導をいただいています。今回は7年ぶりのご登場をお願いしました。
「六甲山頂・散歩道」を観察してからの講演
六甲山自然保護センターの駐車場付近から、ツボミの御衣黄桜や、満開のタムシバの観察が始まりました。近畿自然歩道に入るとアセビも満開でした。ゆっくりしたペースで「まちっ子の森」に入りました。アセビを伐採して明るく変容した森で、見学コースを辿りました。植物案内は尾崎さん、二つ池の生物解説は久門田さん、に応援していただきました。クロモジの大木がある斜面に咲いたスミレも観賞し、自然歩道に戻りました。ここでは「六甲山頂・森と歴史の散歩道」へと補修整備している状況も視察しました。
六甲山らしい静かな山道を六甲山ホテルの東側まで歩き、キブシやアケビなど目立たない木の花も探して解説していただきました。ホテルからドライブウェイを東に歩いてセンターに戻りました。
午後の講演では、目立つ花と目立たない花に分けて、スライドで解説していただきました。木の花の語源や、顕微鏡写真での花の構造の説明は、印象深いものでした。
ご専門の植物形態学や分類学の知見に質問を受けて、丁寧に説明されました。締めくくりで、「まちっ子の森」の手入れを踏まえ、生物多様性回復の見込を講評されました。
まちっ子の森での植物回復を期待したい
目立たない木の花をみつけるということを触発されました。まちっ子の森を皆さんでゆったり散策していただきました。陽が当たるようになって、草花や土壌生物が活発になりつつある状況を確認しました。六甲山上では貴重な森の手入れをしつつ、観察を楽しめる環境にしていきます。
講演の内容
講演の挨拶(高橋 晃さん)
7年前には春の花というお話しで、主に草花でした。今日は木の花を見てみようということにしました。今朝歩いてみて、まだツボミで花は多くなかったです。
1.春の六甲山で花を見られる木
春のシーズンには、アセビ、ヒサカキ、クロモジ、キブシ、コバノミツバツツジ、コバノガマズミ、コ
ツクバネウツギ、ツクバネウツギ、アケビ、コナラ、タムシバ、ウグイスカグラ、ヤマザクラ、ウワミズザクラ、オオバヤシャブシ、フジ、ウリカエデなどが花を咲かせる。
キブシ、ヒサカキ、アセビ、ヤマザクラは3月下旬から咲き始める。山頂付近になると、4月中旬以降でないと咲かないと思われる。
2.六甲山で目立つ花
■目立つ花といえば?サクラ!
サクラの仲間は目立つ。今中腹で咲いているヤマザクラ、道路沿いで等間隔に植えられているのはソメイヨシノだ。
サクラの中でもウワミズザクラ(上溝桜、裏(占)溝桜)というサクラがあり、花序が穂になり普通のサクラとは違う。花びらが5枚で、ヤマザクラと同じように離弁。おしべも10本以上ある。子房が下の方にあり、基本的なつくりはヤマサクラと同じだ。
■タムシバ(田虫葉、匂辛夷)
野生では関西ではタムシバ、関東や北の方へ行くとコブシが一般的だ。花には芳香があり、葉っぱを噛むと少し甘い。噛む柴というところから名前がついた。
花をアップして見ると、黄色いものとまん中のミドリ色の混合上のものがある。まん中は雌蕊(めしべ)で、何十本か螺旋状に集まっている。周りの黄色くなった所は1本1本が雄蕊(おしべ)で、雄蕊は横の所が割れて花粉が出る面白い構造を持っている。
■アセビ(馬酔木)
アセビは毒があり、血圧低下とか、腹痛、下痢、嘔吐、呼吸麻痺などを起こす。アセビの花の花びらは合弁で壺型になっている。中心部分に雄蕊と雌蕊があり、雌蕊の周りを10本くらいの雄蕊が取り囲む。下に棒状で先端に花粉の入っている袋、葯がある。先端部分に切れ込みがあり、孔が開いていて花粉が出る。
■コバノミツバツツジ(小葉の三葉躑躅)
コバノミツバツツジは西の方に多く、関東の方にはない。関東のはミツバツツジで葉っぱが少し大きく、種は全く違う。ツツジの花も合弁花だが、先っぽが分かれていて離弁花のように見える。中央部分の奥に斑点が点々とついた蜜標(ミツヒョウ)がある。ミツを吸うためにハチが飛んでくる目印になる。中央部分に長い雌蕊が1本、周りを10本程の雄蕊が取り囲む。雄蕊の先に葯があり、先端に孔が開いて花粉が出る。花粉の出方はアセビと同じで、孔が開くので孔開型と言う。
3.春の雑木林で目立たない花
六甲山の雑木林を歩いていると、目立たない木がたくさんある、花の構造を見るなど、何か面白い特徴を少し掴まえ、知識に幅と奥行きを持たせてみたい。
■クロモジ(黒文字)
クロモジは他の木があまり葉っぱを広げていない時に花が咲くので、花は小さいが黄色いものとして目立つ。若い枝先は緑色で黒い模様がある独特の木の肌をしている。雌雄異株で雄の木と雌の木が分かれている。雄蕊の葯は、弁が開いて花粉を出す孔が開く。これは弁開といい、クスノキ科の特徴だ。
■キブシ(木五倍子)
下の方へ行くとキブシは満開だが、花がいくつか連なって垂れ下がったような花序をしている。葉っぱは無いので、花かんざしみたいな状態になっている。キブシの実から黒い染料が取れ、昔はお歯黒に使った。雌雄異株で、雌の木と雄の木では開花時期がずれていて、遠い所の個体に花粉が付いて種の保存をするようになっている。
■オオバヤシャブシ(大葉夜叉五倍子)
ヤシャブシという木は、マツボックリみたいな実がなる。ゴツゴツしているので夜叉に見たてている。ヤシャブシよりも葉っぱが大きいので、オオバヤシャブシという名前が付いている。雌雄同株、雌雄異花で、雄花の花粉が余所の雌花に付くようにする構造をもっている。空中窒素の固定能力があり、治山とか肥料の木として、六甲山にも植栽されている。
■ヒサカキ(柃)
早春の代表的なものの一つとしてヒサカキがある。これも目立たないので、花がいっぱい咲いている時でも見過ごすことがある。ツバキ科の木で、雌雄異株で小さい花を咲かせ、独特の匂いがある。
ヒサカキは神様の前にも、仏様の前にも供えられるのは、ちょっと不思議だ。
■ウグイスカグラ(鶯神楽)
ウグイスカグラは、スイカズラ科の木で、小さなピンク色の花がぶら下がって咲く。
無毛のウグイスカグラ、毛がいっぱいのヤマウグイスカグラ、粘々した毛のミヤマウグイスカグラの3変種がある。
■アケビ(木通、通草)
ツル性のもので、今日は花のつぼみがあったが、雌雄同株で雌雄異花だ。一つのツルから花の枝が出て、大きな花が咲くのが雌花で、小さな花がいくつか付いているのが雄花。雌花の方に小さいバナナのような赤いものがついていて、これがやがて太るとアケビになる。花が咲いていないと、見過ごしてしまいそうになる。
■ウリカエデ(瓜楓)
ウリカエデは「瓜」の「楓」、これも二次林に多い。葉っぱの切れ込みが3つに分かれるのが多いが、1枚でペロンとしている場合もあり、いわゆるカエデ、モミジらしくない葉っぱをしている。雌雄異株で、カエデの実は翼果(よくか)といって、翼が出るのが特徴。春早く、咲く花は地味で、気がつく人は少ないかもしれない。
■コバノガマズミ(小葉莢蒾)
4月の末くらいに一般的な二次林でごくごくふつうに咲く。ガマズミの花は小さい花が集まって、
葉っぱは対生(2枚左右に広がる)で、葉脈が平行脈でたくさん入っている。コバノガマズミは葉柄が短いのが特徴。
まとめ(高橋さん)
ゴールデン・ウィークのころに、ぜひ歩いて花を見つけてください。近づいて花をよく見てみると、
ちょっとずつ作りが違うので、印象が違って覚えやすいのではないかと思います。虫メガネなどで見る習慣をつけてください。
事務局より
六甲山では4月から6月にかけて、木の花を見ることができる。目を凝らしてみると、いろんな花を発見することができる。今後も、春の木や草花の鑑賞会を催していきたい。