市民セミナー報告書より
快晴の午前中は、環境整備と自然体験の2班
爽快な秋晴れの午前中、神戸ぴかぴか隊など7名が近畿自然歩道のササ刈りに先行。初参加者など6名は「森と歴史の散歩道」を散策し保全整備の状況などを視察し、ササ刈り班に出会いました。午後は18名が参加しました。
松岡さんと森づくりの意見交換が楽しみ
松岡 達郎さんは、神戸市が3年前に創設した、六甲山の新たな森林整備を進める専門部署で、初代の室長として第一線に立ち、100年後を想定して活躍されています。
当会が事務局を務める六甲山環境整備協議会に参加され、森づくりの活動に関して平素からお世話になっています。この市民セミナーでも、六甲山の自然環境に関するテーマには度々ご出席いただいてご意見をいただいています。
今回は、六甲山の森林整備の課題や方策を真っ正面から取り上げたいと考えて、出前トークをお願いしました。
整備戦略の背景を説明して、課題と方策の話題へ
本題に入る前に、「六甲山整備戦略」の前提や背景としての視点を整理されました。その第1は「都市山六甲山の歴史と特色」です。六甲山は大都市神戸に隣接する「都市山」で、林業が行われていないので、間伐など普通の山のような施策が適用できない特異な地域であると解説されました。
次に、これまで100年以上の六甲山の植樹の歴史を踏まえて、「木を伐って山を守る」方向への転換、「山の手入れ」を重視する活動を説明されました。そして、植生回復よりも土壌を復元するには長年月かかる、広葉樹には小規模皆伐も検討すべきであるなど、留意点を列挙されました。
また、自然保護をめぐり、様々な価値観が対峙することや、国立公園内の私有林の管理など、地域特有の問題点にも触れられました。話題の最後は六甲山の課題とポテンシャルで、六甲山の森林保全に向けたプロジェクトのアイデアや、実施中の市有林の森林整備の現状を説明されました。
休憩後の意見交換の口火で、「林業施策を取り入れた山の管理だけではできない、金の仕組みや、市民参加の仕組みを考える必要もある」と補足されました。参加者から提言や質問があり、真剣なやりとりを続けました。話題が広範囲でしたが、配布された資料に全容が紹介されています。
今回の講演で、「山の手入れ」の必要と、市民の参加を求めるメッセージは皆さんに浸透したと思われました。
「山の手入れ」の市民活動を期待したい
六甲山でイベントやスポーツを楽しむ試みは多いが、市民が「山の手入れ」について本格的に意見交換する場は貴重です。六甲山の森林の保全・整備は行政依存や他人任せにできない状況になっています。「森林整備戦略」も実施段階に入りますので、市民主導の活動プログラムも盛り込むことによって、着実に実践したいものです。
講演内容
講演の経緯(松岡 達郎さん)
■目的・概要から紹介して、意見交換します
まず、六甲山森林整備戦略の目的や、六甲山の概要を説明します。次は価値観の多様性で、いろんな意見があります。私有林をどうするかも課題です。六甲山パートナーシップとして、六甲山の課題とポテンシャルをお話して、意見交換をしたいと思います。
1.都市山六甲山森林整備戦略の概要
■都市山って何なのか
六甲山は宝塚~明石海峡の範囲で、東西方向約30km、南北方向約10kmの山塊で、神戸市域は約9,000haある。壊れやすい花崗岩の急峻な地形である。
六甲山は周囲を都市に囲まれ、都市計画の区域内にあるのが特色になる。市民の暮らしと六甲山の新しい関係をつくりだす、森林の持続可能な管理システムをつくる、六甲山の新しい価値を創造することが必要になる。
■来年度から10年間の取り組み
「六甲山森林整備戦略」は、六甲山森林の将来像を「多様な動植物が育まれ、多くの恵みをもたらし、美しく活力あふれ、街とつながる安定した森林『六甲山』」と掲げて平成24年4月に策定された。「市民・企業・行政協働による六甲山の森林を支える仕組みづくり」を基本的な考え方に、2015年度までを準備期間として、来年度から当初10年間の取り組みを始める。森林整備手
法、私有林での新たな取り組み、森林整備の組織体制、六甲山ブランドなどを課題にしている。
■人の手による荒廃と復元
昔の六甲山は収奪型で、樹木の幹だけでなく根も掘り取ったので、持続可能な木材・落ち葉の生産限界を超えて、土壌も失い無機物だけの環境になった。人為的介入をしなければ、ハゲ山状態が持続し、自然の力だけでは再生しない。
明治後期に各地で土砂災害が発生した。1895年に逆瀬川で緑化・山腹工事と堰堤建設がスタートした。このように、人間の努力によって森林に覆われた貴重な都市近郊林となった。
2.森林整備に対する価値の多様性
■緑を守るのは「伐らない」で「植えること」
六甲山は、自然公園法、森林法、都市緑地法・近畿圏整備法で直接緑を守っている。砂防法など法規制が二重三重にかかり、いずれも伐ることは例外事項になる。
■森林の話をすると林業の話になる
林業では人工林の間伐がよく知られている。成長不良な木は間引きし、伐った木は生産材として使う。林業をしていない六甲山では広葉樹が95%で、広葉樹林を間伐すると樹冠が広がるので、小規模の皆伐も検討すべきである。
■人の手が加わることによる生物の多様性
砂防ダムの副次的効果として、土砂が堆積して湿地帯になっている。草地性の自然も人間が荒らした結果だが、これらの環境で生物多様性は豊かになっている。
3.私有林の整備(必要性と公益性)
六甲山の半分は私有林で北区に多く、山上地域も私有地が多い。山村地域では林業施策を推進できるが、都市山では難しい。下唐櫃村での森林保全は例外的で、誰も手入れする人(森林整備の担い手)がいない。
■農山村振興と、緑地保全のゾーン分け
神戸市では生産林業が行われていないので、森林区域の保全に関しては、より公益性に配慮した緑地保全を図る「みどりの聖域」をベースにすべきである。
■六甲山の果たす役割について
どのような森林保全にお金を投資できるかを検討するために、平成23年度に神戸市民にアンケート調査した。何らかの整備を実施すべきは88.6%、行政の支援が必要は61.3%、NPO・ボランティアの参画・協力は25.4%であった。しかし、税金投入を問うと賛成は40%で、リスク負担よりも期待の方が大きい。
4.六甲山の課題とポテンシャル
■六甲山上モデル
山上地区は大きく木が成長し眺望や見通しが悪化している。六甲山は寂れて活動者が減少し、放置山林の防災面も不安がある。私有林が多く企業や個人の財産も多い。明るい森づくりで活性化につながらないかを考えている。
ハイキングコースを歩くと、高齢者や若い女性グループなど沢山の人に出会う。六甲山のポテンシャルだ。
■プロジェクト・アイデア
六甲山回遊構想に、山上回遊路、自然共生型ツーリズム、ローカルバイオマス、木材環境のリデザイン、企業向け教育拠点、六甲の森・神戸学校林、六甲サトヤマ計画、などを盛り込んでいる。
■パートナーシップで都市山「六甲山」
六甲山の森林保全に向けたプロジェクト・アイデアを検討してもらう場(ROKKOTHON)を設ける。縦割りでなく、一つのテーマから多様な市民や行政・企業が対立ではなく、パートナーシップにより結びついていく現場が、都市山「六甲山」と考えている。
意見交換
●松岡【口火】:山上地域の活性化には山の手入れをすることが結びつくというのを主眼にやっていきたい。山上地域は約370ha、東はカンツリーハウス、西は三国峠辺りになる。「こんなことが面白い、こんな人を使える」といったことを聞かしていただきたい。
◆高田:神戸地域ビジョン委員会で、6月に六甲山でムーブメントをしたい。六甲山に関わるいろんなグループはあるが、横の連携があまりない。集合体みたいな六甲ブランドができたらいい。人に来てもらえるイベント的なものから一歩一歩着実にやりたい。
◆松井:六甲山ドライブウエイ沿いの樹木が10年先20年先になったら無くなってしまう。10年前に葛を伐った。表六甲ドライブウエイで葛に巻かれた木がいっぱいある。今なら葛を根本から伐れば木は助かる。
●松岡:表六甲の沿線は最近ツル植物が繁茂して優先しかけている。表六甲沿いは国や市が持っている土地もあり、公共側でまず相談しなけりゃいかんという部分がありますが、持ち帰らせていただきます。
◆兼貞:六甲山を歩くと、若い人や中高年のハイカーが非常に多い。六甲山を遊びの対象、ス
ポーツの対象と考え、歴史や自然環境について考えている人は余りいない。
昔のように、企業が自然をもとに若い人を育てようとするのも欠けている。
●松岡:皆さん個人でハイキングなどに行かれる。それは健全なことと思うが、山の手入れをすることにも関心を持ってもらいたい。神戸市では、「にぎわい」という視点から「六甲摩耶活性化プロジェクト」に取り組んでいる。プロジェクトを継続するパワー、持続的な観光施策にする話、集中的にやる話など、担当者も悩んでいると思う。
◆大西:ここまで都市化している国立公園は日本で探してもなく、私有地も多い。伊勢志摩国立公園は私有地が96%を超えている。私有地は利用する面で問題を感じる。整備された方が山に入りやすい。私有地の所有者の明確化をどのように図るか、行政として私有地への強制力、実効性をどう果たすのか疑問に思う。
●松岡:私有地の管理の問題と、明確化が一番大きな問題になっている。六甲での私有地をどう
考えるのか、企業は保養所などの形で土地を持っているので、その辺の区域は明快な部分があ
る。いろんな形があるので私有地という切り口だけで判断するのは難しい。
◆柴田:観光に興味があった。皆さんは深く考えられている。観光以前に六甲山自体をどうするか考えたい。
●松岡:神戸市の都市問題研究所が『都市政策』という機関誌を出している。そこに、元六甲摩耶鉄道の上田社長が六甲山の観光の特色、ここの観光の特殊性をきっちりまとめられているので参考になる。
◆長谷川:六甲道に住んで毎日六甲山を見て過ごしている。一番気になるのは表六甲のドライ
ブウエイの不通で、これぐらいのことがなぜ開通しないのか不思議だ。道路が通じなければ六甲山の活性化もないから。
●松岡:道路の路盤のアスファルトの部分は持ちこたえているが、その下の急峻な所の土砂が流れて100m単位で崩壊している。崩れた個所は国のグリーンベルトの区域を含んでおり、道路の開通、それから本格的な山腹の復旧になる、まだ目途は立っていない。
事務局から
松岡さんに、「六甲山森林整備戦略」というトータルなビジョンを語っていただきました。「六甲山の手入れをすること自体が、活性化につながる」というメッセージに多くの共感が集まるのを期待します