参加申し込み

市民セミナー報告書より

まちっ子の森で初めてのきのこ採集

  朝の記念碑台の気温は21℃で曇り、参加者は小学生4人を含む30名です。午前中、きのこ採集に28名が参加して、記念碑台から近畿自然歩道、まちっ子の森で活動しました。対象地域のきのこを本格的に調べるのは初めての試みです。

奥田さんはきのこの研究者

 兵庫きのこ研究会の山上さんから若手で本格的にきのこを研究されている奥田さんを講師にご推薦いただきました。奥田さんは、大学は理科系を選んで植物の研究、そして山歩きできのこに出会って、鳥取大学の大学院で菌根菌を研究されています。いずれは動物の研究に向かうことも考えて、幅広い視点から知識や経験を深めておられます。きのこを研究して「わからないということがわかった」と、研究の奥深さを述懐されました。

きのこを知らなかった人にもやさしく手ほどき

 午前中のきのこ探しでは、散歩道とまちっ子の森で約20種類のきのこを採取しました。標高が高く、明るくない環境なので、きのこの生育には不向きだということでした。参加者は地面を食い入るように探し、きのこを発見しては、質問していました。用意した採取用のカゴには、きのこが大切に保管されていました。

 午後の講演は、きのこの研究に取り組まれた背景を自己紹介された後、スライドで、きのこの基本的な知識を解説されました。

 冒頭で「きのことはなんですか?ヒトの仲間ですか、タンポポの仲間ですか?」と問いかけて、「どちらでもない。カビの仲間です。どちらかと言えば動物に近い」と意外性に関心を引き寄せられました。「きのことは?」から「きのこの役割」「きのこの見分け方」と、きのこを見分けるポイントを次々説明されました。さまざまなきのこの例や、六甲山の再度山での調査についても紹介されました。

  そして、午前中に採集したきのこについての解説です。同定されたのは、イッポンシメジの仲間、ヒトクチタケ、キツネタケの仲間、ベニタケの仲間、ウラグロニガイグチ、ニッケイタケ、サクラタケ、チチアワタケ、アシナガタケの仲間など9種でした。

きのこが森の植物を育てることに啓発された

 当会が森の手入れをしている地域で、本格的にきのこ調査をしてみることに大きな期待をしていました。きのこが育つには不向きな環境であることや、きのこが植物を育て
る働きをしていること、きのこが育つのは明るく開けた森が適することを知りました。きのこが森を再生する指標になるというのが大きな発見で、貴重な収穫でした。

講演の内容

講演の挨拶(奥田 彩子さん)

 今回のスライドはきのこは何かという所から始まって、どういう風にきのこを楽しんでもらえるかを考えて作りました。きのこを詳しく研究してきたつもりですが、難しい話はなるべくしないでお話します。

1.六甲山できのこ調べ(午前中の活動)

■午前中は20種のきのこを採取

 午前中、思ったよりも大型のきのこが採れました。数はありましたが種類は少なかったです。どういうところに生えているか、どういうきのこが生えているか、どういう形のものが生えているのか、だいたいわかってもらえたと思います。

2.きのこの見分け方とコツ

 きのこはかびの仲間です。栄養を自分で作り出さず他の植物に頼っているので、動物に近いといえます。

■きのことは?

 きのこというのは植物でいう花にあたります。胞子を作って増えます。本体は菌糸で、きのこというのは菌糸の一部です。胞子とは植物でいう種のようなものです。

■きのこの役割

 動物や植物の遺骸を栄養源とする腐生菌、次は私が研究していた菌根菌で、植物の生きた根と共生が必要な菌です。これは植物が光合成で作りだした栄養源をきのこがいただいて、きのこから栄養源を分解しやすい形で提供します。最後に昆虫類に寄生する寄生菌です。植物に寄生するものもあり、漢方等で冬虫夏草といわれるものがあります。

 ●生態系のサイクルの分解を担当:きのこがなかったら、森の中は落ち葉とか枝だとかでいっぱいになり、植物が元気に育つことができない。昆虫に寄生する寄生菌は昆虫が増えすぎる密度を抑える役割をしています。

■きのこの見分け方

 きのこの「傘」の部分、茎みたいなところは「柄(え)」と呼びます。テングタケの仲間は柄の上の方に「つば」が付きます。「つば」があるかどうかできのこを見分けます。重要なポイントは下の方に「つぼ」が付くかどうか、「ひだ」になっているかどうか、「ひだ」が何色かということです。きのこを見る時に上から傘の色を見て見分けることが多いです。傘の色は変わるので、傘の色よりもひだの色の方が重要です。

 傘の形がいろいろあります。よくあるのは半円形、真ん中が深くなった円錐形、真ん中がくぼんだロート状になったものがあります。

 断面を切ってみないとわからないですが、「ひだ」の付き方です。ひだが柄に沿って直角についているか、上向きか、離れているか、下向きかなど、図鑑に書いてある重要な点です。

 あとはきのこの生え方です。複数、何本かきのこの本体生えている時は、ばらばらに生えているか、集まって生えているか、輪になって生えているとか。木に生えるきのこ、サルノコシカケみたいなものが重なって生えているかどうかというのも重要ですね。

●同定のポイント:傘の裏を見る、ひだの形を見る、臭いをかぐ、(味を見る)、つば・つぼの有無を見る、どこから生えているか見る、傘の色は気にしない。

■変わったきのこ

●まん丸なきのこ:ホコリタケ類、トリュフ類など。ホコリタケは丸の先っぽを押すとぱっと胞子が出てきます。トリュフは世界3大珍味のひとつで、地面の中に生えます。探すのに鼻が良いブタなどを使います。すごくいい匂いがするので、匂いを嗅ぎつけた動物が食べて胞子を運びます。

●木に張り付くきのこ:サルノコシカケは抗ガン剤にも使われる。アイコウヤクタケはきのこに見えないのですが、顕微鏡で見ると、菌糸の構造や胞子が見えます。中華材料でよく売られているキクラゲ(木耳)は木に耳のように付いています。

●お茶碗のような形で真ん中がへこんだきのこ:チャワンタケ類、お茶碗がいっぱい集まった形のアミガサタケはヨーロパで食用にされています。

●胞子が液状になるきのこ:いい匂いがしたり、臭い臭いがします。サンコタケやキヌガサタケはトリュフのようないい匂いがします。ハエとかが来て胞子を身体に付けて運びます。

●きのこから生えるきのこ:ヤグラタケは、ベニタケの仲間のクロタケから生えています。まさに、ヤグラの上にヤグラがある。

●世界最大のきのこ:ナラタケは1個1個のきのこは5~8cmと小さいですが、きのこの本体の菌糸は地面の下を巡って、山が丸ごと菌糸で覆われています。

●冬虫夏草:クモタケは、地面に巣を作るクモに寄生して生えるきのこです。ヤマタケはトンボから生えるきのこです。トンボが生きている間から寄生し、ある日トンボが動かなくなったら、菌糸が身体の中でいっぱいになって、このきのこが生えてくるといわれます。

■食物としてのきのこ

●スーパーで売っているきのこ:シイタケが一番有名です。シメジは難しくて、ホンシメジとして売られているのはブナシメジで、ブナシメジといって売られているのはヒラタケです。エノキダケ、マイタケ、ナメコがあります。

●きのこの迷信:色の鮮やかなきのこは毒きのこ、ナスとか銀のスプーン一緒に煮ると毒が抜ける、縦に裂くことのできるきのこは食べられる、毒きのこはナメクジや虫に食われない、というのは全部嘘です。きのこが食べられるか食べられないかというのは、一つずつ種類を覚えるしかありません。

●きのこの中毒症状:嘔吐、下痢、発汗、そして幻覚が有名です。興奮したり、腹痛、腎臓や肝臓の障害があります。最悪、死んでしまいます。中毒しないためには、確実に鑑定されたもの以外は食べない。きのこ採りでは有毒なきのこが混じらないように注意する

3.きのこを知ることの楽しみ

■六甲山のきのこ

 御影高校の生徒さんと一緒に再度山で調査をしています。六甲山でよく見られるきのこをまとめてくださったので、ベスト5を紹介します。

●ヒトクチタケ(一口茸):マツの枯れた木から発生します。魚の干物のような臭いがします。裏の方に穴が1個空いていて、この穴から胞子を散布します。

●カワラタケ(瓦茸):枯れた木から発生します。古くなると白くなります。白くなったのがありましたね。抗ガン作用が認められ、漢方薬として使われます。

●ツチグリ(土栗):マツと共生して生きている菌根菌です。マツに栄養分を与えてマツから栄養分をもらっています。丸い形ですが、湿度が上がると外の殻が開いてきて、中の胞子が出てきます。

●ツガサルノコシカケ(栂猿腰掛):サルノコシカケで有名なひとつで、針葉樹の枯れた部分から生えます。樹木の成分のリグニンを分解するので、褐色に腐らせます。抗ガン作用が認められています。

●マツオウジ(松旺子):キノコ形のきのこで、マツの枯れた部分から発生します。梅雨から秋にかけて見られ、割と大型で高さは15cmほどになります。マツヤニのような独特の匂いがしますが食べられます。

まとめ(奥田さん)

 六甲山ではマツと関係するきのこがよく生えています。これは、六甲山が里山として人間が利用していることを現していると思います。

 きのこというのは半分名前がついていません。新種が毎週とか毎月とかどんどん発表される世界です。私はそういうところが面白いと思います。きのこの名前を自分で決めるというのは大きな魅力だと思います。わからないことが楽しいという、そういう魅力を感じています。