市民セミナー報告書より
午前中の散策でシチダンカを鑑賞
午前中は7名で「散歩道」の定期点検をしながら、自然散策しました。「まちっ子の森」でモリアオガエルの卵塊を確認し、六甲山ホテル駐車場では、植栽されたシチダンカを鑑賞しました。午後の講演には26名が出席して賑わいました。
郷土史情報収集家の本領を発揮
前田康男さんに初めて市民セミナーの講師をお願いしました。六甲山情報の収集に卓越され、これまで、昭和初期の灘や六甲を紹介するイベントで顧問格としてお世話になってきました。
摩耶山のケーブル・ロープウェイを経営する神戸市の都市整備公社が業績不振で撤退しかけたため、存続を求める住民運動が高まりました。そのような経緯で摩耶山を活性化する活動は盛り上がっています。前田さんは灘区のアイデアコンテストに「シム記念摩耶登山マラソン」を提案して第1位になり、実行委員会の委員長も引き受けています。
「シム記念摩耶登山マラソン」の基礎を固めた
「摩耶山の山おこしのサンプルとして気楽に聞いてください」と、「シム記念摩耶登山マラソン」を着想した背景を説明されました。摩耶山の活性化のアイデア・コンテストに応募する際に、人気のあるイベントを調べて、トレイルランニングを取り上げ、そして神戸や摩耶山の歴史遺産を生かすことを考えたとのことです。
143年前の明治5年に、旧居留地と旧天上寺の間で日本最初の長距離ロードレースが行われました。居留地外国人のスポーツ同好会「神戸レガッタ&アスレチッククラブ」が実施し、同クラブの創設者であるA.C.シム氏がロードレースで優勝しています。A.C.シム はラムネの製造でも有名で、防災ボランティアの先駆者でもありました。彼をもっと知って欲しいという理由で、「シム記念」と命名しました。
摩耶山を舞台にした長距離ロードレースの復活・再現を目指して当時のコースを踏査した結果、青谷道が選定されました。参加賞もシムにこだわって、ラムネやTシャツを製作したり、イノシシ肉入りのカレーも開発しています。
灘区役所に実行委員会を設立し、地域の活動団体を巻き込み、行政機関との連携を密にしています。
2013年5月に第1回を終えて、2014年12月に第2回を開催し、「シム記念摩耶登山マラソン」の基礎を固めることができ、2015年12月5日は第3回の開催を予定しています。そして、摩耶山の初冬の風物詩になるのを期待されています。
初冬の風物詩に定着するのを期待します
歴史上の出来事と現在のニーズを組み合わせ、「不易流行」を絵に描いたような試みをされました。摩耶山の活性化に「オール灘」を動員して新風を巻き起こしています。このイベントが文化に育っていくかどうか興味津々です。
講演の経緯(前田康男さん)
■山おこしのサンプルとして聞いてください
摩耶ビューラインは年間1億円もの赤字で都市整備公社の撤退が問題になりました。ケーブル・ロープウエイの存続を求めて住民運動が起こり、2011年に存続が決まりまし
た。摩耶山の活性化に努力する活動が盛んで、この試みもその一つです。
講演内容
1.シム記念摩耶登山マラソンの着想
■摩耶山の活性化、コンテストで1位
2011年に摩耶山の活性化を図るアイデア・コンテストがあり、応募して111提案中の第1位になった。摩耶山に興味を持ってもらうことを考えて提案した。
トレランの着想:世の中で流行っている人気のあるイベントに注目した。神戸マラソンは参加費1万円でも8万人が参加している。全山縦走は4~5年前から申込に徹夜で並ぶ人気になっている。平地を走るのと山歩きを併せると「山を走る」。トレイルランニングの人気が高まっている。「トレラン」をやったらいいと着想した。
摩耶山・神戸独自のもの:摩耶山には歴史遺産が数多い。143年前の1872(明治5)年には、居留地と旧天上寺の間で日本最初の長距離ロードレース(14.5km)が行われた。しかも、1909年に開催された神戸~大阪間の日本最初のマラソンよりも数十年早い。
A.C.シムが活躍:長距離ロードレースでは、アレキサンダー・キャメロン・シムが1時間23分30秒でぶっちぎりで優勝している。彼はスコットランドの人で、明治3年にKR&AC(居留地外国人スポーツ同好会「神戸レガッタ&アスレチッククラブ」、147年継続)を創設している。神戸のスポーツ界の基礎を築いたKR&ACやA.C.シムを神戸の人にもっと知って欲しいので、「シム記念」と命名した。
■日本最初のロードレースの再現
明治5年に摩耶山を舞台に日本最初のロードレースが開催された。これを「シム記念摩耶登山マラソン」で復活・再現することにした。
A.C.シムの偉業:シムは薬剤師の資格も持ち、居留地18番で薬や化粧品を販売した。ミネラルウォーターやラムネの製造販売で有名で、「18番」のラベルはラムネの代名詞になった。居留地の自衛消防隊長を努め、「三陸大津波」や「北美濃地震」の際に現地に飛んだ、防災ボランティアの先駆者でもあった。1900年に亡くなり、東遊園地に顕彰碑が建立された。
コースを検証:明治5年のロードレースはどの道を登ったのか、文献を調べたが見つからなかった。当時の新聞「神戸クロニクル」に、「260段の心臓破り」の記事がある。これは旧天上寺の階段と推定される(実際は330段)。コースは確定できなかったが、「青谷道」を適切と判断してマラソンコースに選択した。
2.特色ある大会へのこだわり
■摩耶登山マラソンの提案
コースを決定して、シム記念や、摩耶山独自のものを
復活することにこだわって、提案を具体化した。
第1回は青谷道:交通事情から居留地スタートは無理と判断し、王子スポーツセンターを出発して掬星台まで駆け上がるコースを提案した。警察の許可を得られず、受け付けは王子公園で、15分歩き、妙光院前をスタートにした。
シムのラムネを復活:シムが製造したラムネを復活して参加者に提供することにした。当時のラムネのラベルを探したが見つからず、ミネラルウォーターのラベルを参考に制作した。ガラスのラムネ瓶は製造している所がほとんどないので業者に回収してもらって利用した。
地元のボランティアをお願い:100人くらいのボランティアが必要だと考えた。相手の了解を得ないで、摩耶山を守ろう会には飲食物のサービス、つくばね登山会にはコース誘導などの担当を提案に入れた。
3.「オール灘」の協力で開催が実現
■実行委員会を立ち上げ
灘区役所のまちづくり課で「シム記念摩耶登山マラソン」実行委員会を設立し、区役所が事務局になって、関係官庁との折衝など調整の中心役を果たした。
7団体の人選:実行委員会の人選が成功の大きな要因になった。提案者の前田が初代の実行委員長、副委員長はA.C.シムに因む「神戸レガッタ&アスレチッククラブ」支配人。実行委員は、摩耶山再生の会・事務局長、灘百選の会会長、つくばね登山会会長、摩耶山を守ろう会会長、摩耶山観光文化協会会長で、いずれも地域活動を支える有力な方々が集まった。実行委員会には関係する行政機関や、アドバイザーにも出席していただいた。
■「オール灘」による協力
「シム記念」と銘打ったので、参加賞のラムネやTシャツ製作、KR&ACへの参加要請、「シムギャラリー」の展示などを行った。これらを「オール灘」で進めた。
デザイン・チラシ制作:参加賞のTシャツやラムネラベルのデザイン、募集チラシのモデルや制作は、灘区在住のデザイナーや参加者に依頼した。
摩耶山カレー:摩耶山を守ろう会は、六甲摩耶の名物としてイノシシ肉入り「摩耶山カレー」を開発した。肉の硬さと臭みは、「沢の鶴」の酒粕と「萩原珈琲」のコーヒーを添加することで解決した。
企業・団体の協賛:灘区に本社、支店、あるいは店舗を持つ企業、団体にお願いし、11企業・団体に協賛していただいた。神戸新聞社、読売新聞神戸支局、ラジオ関西、神戸商工会議所の後援もいただいた。
マスコミ広報:2013年2月以降、新聞各紙、ラジオ、神戸市広報誌、神戸市長定例記者会見等で広報した。
■第1回の実績と第2回の変更
第1回は参加者から良い評価を得て、次回開催の希望も多かった。いくつかの変更点を加えて第2回を開催し、基礎固めがやっとできた。
第1回の実績:2013年5月11日(土)、小雨の中で第1回が開催された。応募者465名で参加者245名。ボランティア参加者は124名になった。
平成25年度・地域活動賞の受賞:神戸や摩耶山の歴史を踏まえた摩耶マラソンの魅力を発信したことが評価されて、9月20日に相楽園会館で、「平成25年度・地域活動賞」を受賞した。
第2回の変更点と実績:受付とスタート地点を神戸高校同窓会館に移し、コースは上野道に変更した。わくわくコースはチームランに変更した。2014年12月6日(土)、寒い日に第2回が開催され、参加者301名。ボランティア参加者は99名(警察・消防除く)になった。楽しく一体感があったと好評であった。
出席者から一言
◆黒田(マラソン参加者): 第2回に参加し非常に楽しかった。大会のいわれを知って勉強になった。
◆浅田(まちづくり課係長):前任者に誘われて第1回と第2回にボランティア参加し、4月から配属になった。提案者の熱意があってのことで、「いわれ・歴史をマラソンに、マラソンからいわれ・歴史も知る」機会になる。事務局として委員長を支えたい。
◆石原(小学同窓生):第1回と第2回に参加した。前田さんはすごい熱心で頭が下がる。小学校の作文集をすべてパソコンに入れるなど、何に対しても熱心なことを改めて身近に感じた。
◆小代(第121回講師):布引のお茶屋さんの活用を進めている。今日の話はトントン拍子で進んでいる。どのように壁を乗り越えられたか聞いてみたい。神戸の近代史を研究しているが、市民のまちづくりの伝統が根づいていると思う。
前田さんのまとめ
「シム記念摩耶登山マラソン」の基礎固めができた段階で、今後は初冬の風物詩になるのを期待しています。
今年は12月5日に去年と同じコースで実施します。8月頃には募集要項やチラシができるので、ご参加の検討をよろしくお願いします。
事務局から
前田さんが提案して実行委員長を引き受け、着実に見事に「シム記念マラソン」を進められていると感銘しました。地域の歴史・文化に詳しく、六甲山を愛着している前田さんならではの実践で、ライフワークだと思います。周到に組織化し態勢づくりされましたが、一般の市民が支えていけるものに熟成されることを願います。