• 六甲山系のチョウと食草
  • 離宮公園のバタフライガーデンづくり
  • 「あっと」驚くチョウの生態

 六甲山系のチョウを紹介します。そして、力を入れている、近隣のチョウを呼び寄せる庭(バタフライガーデン)づくりについてお話します。また、チョウの生態にまつわる驚きの話もご紹介します。

 小学時代に大学の先生からチョウの手ほどきを受けて、日本の国蝶であるオオムラサキと出会ったことが、チョウをライフワークにするきっかけになっているとのこと。子どもたちが野外に網を持って出かけることから自然の中に飛び込んでほしいと支援しています。六甲山系のチョウのお話と併せ、推進されている「バタフライガーデンづくり」を詳しく紹介していただきます。今回は会場で同時期に開催している「六甲山系のチョウの変遷」(裏面)も見学できます。(事務局)

開催日時2016年4月16日(土) 10:00
会場六甲山自然保護センター& 近畿自然歩道・まちっ子の森
講師谷本 祥二( 須磨離宮チョウの会 代表)
詳細 チラシPDF 報告書抜粋PDF

市民セミナー報告書より

第125回テーマ

六甲山系のチョウ

  • 六甲山系のチョウと食草
  • 離宮公園のバタフライガーデンづくり
  • 「あっと」驚くチョウの生態

実施日:平成28年4月16日(土)  午前10時~ 15時10分

場  所:六甲山自然保護センター、記念碑台・散歩道

講師:谷本 祥二さんプロフィール

1955年(昭30)生まれ、60歳。高松市出身、垂水区在住。1978年神戸大学経済学部卒業、証券会社勤務を経て、1987年から学習塾経営。小学校3年生のときから蝶のとりこになり、少しのブランクを経て現在に至る。須磨離宮公園でバタフライガーデンづくりや観察会。小学3年生の環境学習も手伝っている。

「森と歴史の散歩道」でチョウの食草を探す

午前の記念碑台は快晴で20℃、谷本さんと参加者12人が「森と歴史の散歩道」を歩いてチョウの食草を探した。記念碑台から「まちっ子の森」を経由して、六甲山ホテル東端から記念碑台に戻った。道すがら、テングチョウ、クロヒカゲ、コツバメ、アカシジミ、ジャコウアゲハなどチョウが見られる時期と食草を解説してもらった。

谷本さんの原点はオオムラサキとの出会い

兵庫県立人と自然の博物館の八木 剛先生から、「六甲山系のチョウの変遷」に展示協力される谷本さんを紹介していただいた。谷本さんとセミナーの準備でたびたびお会いして、かなりのチョウの研究家であることを知った。

郷里の高松で小学校3年生の時、チョウの専門家の導きでオオムラサキと出会って、チョウの世界に入ったとのことだ。日常生活では、奥様もチョウの採集家で、チョウに関係する予定を決めてから、年間の予定や計画を考えるとのことで、チョウ中心の生活の様子だ。今回のセミナーでは、成人向きのセミナーにすることと、当会が整備している「森と歴史の散歩道」の食草を調べてもらうことをお願いした。

「チョウを知ってもらいたい」という熱意が伝わる

午後の講演では、前段として、午前中の自然散策で観察したチョウの食草と、チョウの見られる時期を説明し、「チョウにとっては気に入らないコースだろう」と残念そうだった。続いて、「六甲山系のチョウ」について約82種類がいることやアサギマダラが多いことなどを紹介された。次に「離宮公園のバタフライガーデン」について、スライドを使いながら説明された。去年の5月から須磨離宮公園の東端でバタフライガーデンづくりをされ、丸1年で45種類のチョウを呼べる状態になっている。バタフライガーデンで見られるチョウの紹介や、家庭でのバタフライガーデンづくりへと話題が進んだ。

休憩時間にセンターで開催している「六甲山系のチョウの変遷」を見学し、主催者の平尾さんから標本の説明も聞くことができた。後半は、あっと」驚くチョウの生態と題して、あまり知られていない変わった生態を次々と紹介された、鳥を惑わす擬態や、気温や地域での変異などに目を見張った。最後は、カラスアゲハの吸蜜を実演していただいた。ストローを伸ばして蜜を吸っている様子を目にして、参加者は興味が高まりざわついた。チョウづくしの1日で、皆さんが童心に返ったようだった。

まちっ子の森はチョウの食草が少ない

チョウの目から「森と歴史の散歩道」を見てもらった。予想以上に食草が貧相であることを確認した。放置山林化した六甲山上の生態系の問題が明らかになったようで、植生の多様化などの課題を実感する。そんな中でも、時期を選ぶといろいろなチョウが見られることに勇気づけられた。

参加の感想  向山さん

標本を見ながらお話を聴くことで、とてもわかり易く自然保護の大切さをしみじみ感じました。西区神出町にある雌岡山では、生息していたギフチョウが、40年前に絶滅したと聞きました。環境の変化、人為的等が考えられます。「六甲山を活用する会」の活動は、生き物たちと共存できる環境づくりの一役を担っている事業だと感じました。初参加でしたが、メンバーの方たちを身近に感じ嬉しくなりました。ありがとうございました。

第125回テーマ:六甲山系のチョウ

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  • 「あっと」驚くチョウの生態

市民セミナー

1.自然体験:10:00~12:10

2.講演  :13:00~14:10

3.休憩  :14:10~14:40

4.意見交換:14:40~15:10

講演の経緯(谷本 祥二さん)

◆チョウの目から見た「散歩道」/午前

午前中、「散歩道とまちっ子の森」を歩いてみて、たいへん整備が行き届いていることにおどろいた。今回は「散歩道とまちっ子の森」が「チョウにとってどうか」という観点で歩いてほしいとのことだったので、チョウになった気持ちで歩いてみたが、正直、今回は50点といったところだろう。

チョウの食草(食樹)として確認できたのは、アセビ(多い)、コナラ(そこそこ)、スミレ類、イボタ、アラカシ(少し)という程度だった。周囲の環境や過去の観察などもふまえて、このあたりで見られるであろう主なチョウと時期をまとめてみた。(  )内は、チョウの幼虫の(食草・食樹)

5月初旬~5月中旬 コツバメ(アセビ)

6月初旬~6月中旬 アカシジミ(コナラ)

6月中旬~6月下旬 ウラゴマダラシジミ(イボタ)

5月中旬~9月下旬 ツマグロヒョウモン(スミレ類)

5月下旬~9月下旬 ジャコウアゲハ(ウマノスズクサ)6月初旬~10月下旬 テングチョウ(エノキ)

6月中旬~6月下旬 ヒオドシチョウ(エノキ)

これ以外に、8月下樹~9月下旬にかけて、ヒヨドリバナ、ブッドレアの蜜を吸いに、「旅をするチョウ」アサギマダラがたくさん集まる。また、アゲハチョウの仲間も5月下旬~9月下旬にかけて見られるだろう。

講演内容/午後

1.六甲山系のチョウと食草

■六甲山系のチョウは約82種類

日本のチョウは約250種が土着している。その3分の1、約82種が神戸、六甲山系にいる。ガは約6,000いる。チョウはガの進化型だが、ヨーロッパから来た分類で、チョウ(バタフライ)とガ(モス)のはっきりした区別はない。ただ、夜活動するチョウはいないことは確かだ。

■「旅をするチョウ」アサギマダラが多い

六甲山にはアサギマダラが多い。10月24日に和歌山を出て1週簡で神戸に着いた、マーキングがある。東北地方からベトナムまで最長2,500kmを飛ぶ。気温20℃を好み、気温に合わせて移動する。旅をしないで居着く個体もいる。六甲山は移動の中継地で、8月から9月、ヒヨドリバナ、ブッドレヤ、フジバカマに集まる。

2.離宮公園のバタフライガーデン

■去年5月からガーデンづくり

ヨーロッパでは自分の庭でチョウを楽しんでいる。須磨離宮公園の東の端で、7~8年前から計画して去年5月からボランティアでバタフライガーデンづくりをしている。900平方㍍の広さがあり、建物跡のため土はガチガチなので、土づくりからやっている。温室の中でチョウを放すのでなく、近隣のチョウを集めようとするものだ。

■丸1年で45種類が集まってきた

  • 目標はきれいな60種類

離宮公園内で25年間調査して、69種類のチョウを確認した。昨年の秋から今年の春までで45種類が集まってきた。丸1年で45種類のチョウを呼べる態勢になった。ひとつの庭に神戸のチョウの半分が集まった。きれいな60種類のチョウを集めるのが目標だ。

  • バタフライガーデンのチョウ

近畿で48年ぶりにツマグロキチョウが大発生した。どこにでもいるのがキチョウ、ミズイロオオナガシジミは尾状突起を持っている。イボタを食べるウラゴマダラシジミは、裏・碁・斑・シジミという意味で、小さいチョウをまとめてシジミチョウという。

  • 鳥を騙す尾状突起

緑の中で目立つアカシジミは尾状突起を持っている。これは鳥を騙すためのもので、尾の部分に目玉もついていて、ここを頭だと思わせて鳥に食われた間に逃げる。尾状突起を食われた蝶を目にすることがある。トラフシジミ、ミドリシジミも同様だ。

  • オオムラサキの羽化率は2~3頭

オオムラサキの幼虫はピカチュウに似た顔をしている。エノキの袋がけで飼育している。300~500の卵のうち成虫になるのは2~3頭(チョウは1頭2頭と数える)、500分の2。アゲハチョウの場合は100分の2で、親になれる確率はだいたいこの程度だ。

■家庭でミニバタフライガーデンづくり

自分の庭でバタフライガーデンづくりをお勧めしたい。次のような点を留意するとよい。

1.まずどんなチョウがいるのかを調べる。

2.どのチョウを集めるのかを決める。

3.食草は何を植えるのかを決めてピックアップする。

4.5階まで上がってくる、ベランダでもできる。

5.秋には完成させたい。

食草だけでなく吸蜜植物もセットにして植えないといけない。ガーデンでは20種を植えている。

※平尾氏談:食草は56種、庭で26種、食草・樹木で100種。楽なのは手入れの要らない多年草。アオスジアゲハの場合、ヤブガラシを植えると蜜を吸いに来る。食べてもらって喜ぶ。殺虫剤・農薬はいっさい使わない。

3.「あっと」驚くチョウの生態

チョウの擬態

コノハチョウ:羽根を閉じて止まると1枚の葉っぱにしか見えない。葉っぱの軸まで擬態する。

ミヤマカラスアゲハの幼虫:目のような物があるが目ではない。鳥を驚かすために目のような模様がある

■季節変異【季節によって変わる】

ベニシジミ:スイバ、ギシギシを食べるチョウ、春型は色があるが、夏型になると色がなくなりベニシジミで無くなっている。

タテハモドキ:左上は夏型で、出っ張りがあまりとがっていない。右上の秋型になると羽根の形がとがってくる。葉っぱの軸も出てくる。左下の夏型の裏は明るい色だが、右下の秋型になると枯れ葉に似てくる。止まると1枚の枯れ葉に擬態する。目玉模様は少し大きくなる。

■地域変異【地域によって変わる】

場所によって模様が変わるチョウがいる。ミヤマカラスアゲハ:左から順に、熊本、神戸、北海道と北へ行くほど青い模様が鮮やかになる。ナガサキアゲハ:右端の神戸産は白いものがチョロッと、左へ鹿児島、インドネシア、南に行くほど白い紋が広がる。

■生きた化石テングチョウ

テングチョウ:アメリカで新生代の化石が見つかった。約4,000万年前にチョウがいた証拠になる。天狗の鼻を比較するため、モンキチョウを横に並べた。

■その他

フクロウチョウ:海外のチョウ、目玉の模様で鳥から身を守る。クロシジミ:天敵であるアリに育てられるチョウが日本に5種、神戸ではクロシジミ1種、絶滅に近い。幼虫をくわえて巣に持ち帰りエサを与えて大きくする。そのかわりアリは、幼虫の背中から出てくる蜜を吸う。

◆カラスアゲハの吸蜜を実演

最後にチョウに蜜を吸わせる実演をする。ハチミツを15倍くらいに薄めて、カラスアゲハに吸わせる。ここにストローがある、くるくる巻いているのが伸びる。ビロードのような黒い毛があるのがオス。周囲を気にしないで10分くらい吸う。1つの花には蜜が少ないので、ちょんちょんと吸って次の花に飛んでいく。

まとめ(谷本さん)

六甲山の上までよく集まってくれたと感謝します。午前中の食草探しから午後も熱心に参加していただいたので、つい、話す声も大きくなった。大変楽しかった。六甲山の身近なチョウを深く知ってもらいたい。バタフライガーデンなどを通じて昆虫少年の育成に務めたい。

事務局から

形にとらわれず団らんしながらのセミナーになった。会場で開催している展示会で出展者の平尾さんにも解説していただいて、チョウの紹介内容が豊かになった。「まちっ子の森」と「散歩道」はチョウの食草が貧相とのことで、森の整備の重要さを改めて実感した。

◆参考・配布資料など

・パワーポイント・配付資料:「六甲山系のチョウ」

・パンフ:『神戸・六甲山系の蝶と食草Ⅱ』/「六甲山の自然を守ろう会」提供

・「六甲山系のチョウの変遷50年」/神戸県民センター主催

・同上・展示解説チラシ

・『まちっ子の森・樹木図鑑』/六甲山を活用する会

谷本 祥二:たにもと しょうじ

須磨離宮チョウの会 代表

〒655-0861 神戸市垂水区下畑町鷲ヶ尾303-9-1-308

電話: 080-5369-0166

◆参加者の声

・スミレの花とかチョウの食草を、先生の話とパンフレットを見ながら散策し、とてもわかりやすかった。

・チョウの幼虫と植物との関係性がよくわかった。

・須磨離宮バタフライガーデンの説明も興味深かった。

・平尾さんのチョウのコレクションも素晴らしいでした。

・まちっ子の森のアセビ伐採調査、道の整備は本当にきれいできれいにされてびっくり。子どもたちも喜ぶと思う。

・わきあいあいの交流ができた。また、参加したい。

◆参加者:16名(50音順・敬称略)

泉 美代子 伊谷 正弘 岡本 正美 岡谷 恒雄 奥田 信也 長田 隆秀 加藤 紀久 楠本 里枝 谷本 一美 谷本 祥二 堂馬 英二 中尾 啓子 橋本 敏明 向山 和利 森川 正章 柳田千惠子

 

 

 

 

 

 

オオムラサキの幼虫はピカチュウに似た顔をしている。エノキの袋がけで飼育している。300~500の食べるウラゴマダラシジミは、裏・碁・斑・シジミという意味で、小さいチョウをまとめてシジミチョウという。

 

 

 

 

 

 

 

 

  • 鳥を騙す尾状突起

緑の中で目立つアカシジミは尾状突起を持っている。これは鳥を騙すためのもので、尾の部分に目玉もついていて、ここを頭だと思わせて鳥に食われた間に逃げる。尾状突起を食われた蝶を目にすることがある。トラフシジミ、ミドリシジミも同様だ。

  • オオムラサキの羽化率は2~3頭