参加申し込み

市民セミナー報告書より

環境調査終了まで待ってくれた荒天

 降雨率は100%という予報でしたが、午前中の環境整備活動に11名が参加しました。二つ池付近の気温は22℃、曇り空の下、散策路の植生調査・池の測量や生物調査などを済ませました。午後のセミナー開催時から次第に雨模様になり、佳境に入った頃にはガスが出て強風が吹きました。

河合顧問を軸に生徒の成長を支援

 環境科学部生物班の人たちとの出会いは、平成23年2月に開催された「第6回ひとはく共生のひろば」でした。周到な準備をされた口頭発表は見事に館長賞を受賞されました。授賞式で市民セミナー出講を打診しました。当初は顧問の河合祐介先生のコーディネータぶりのご紹介を予定しましたが、生物班11人の研究発表を中心に変更しました。

 御影高校のSPP支援講座の中核となる活動で、六甲山の耐寒登山でエノキタケを見つけたのがきっかけです。平成20年から六甲山・再度山麓の再度公園特定地域で、キノコの調査・鑑定、データ処理・標本作成、そして展示・発表という一連の研究活動を続けています。兵庫キノコ研究会や県立人と自然の博物館と連携し、研究活動の成果発表に至る過程で、生徒の研究心・探究意欲を育くんでいます。

臨時のキノコ展で盛り上がった会場

 講演の前に、自然保護センターのレクチャールームはキノコ展の会場に一変しました。移動ボードにはポスター長机には100種に及ぶキノコ標本が並びました。

 冒頭は河合先生が概要報告として、キノコ研究の意義や目的を簡潔に紹介されました。3年間で数々の授賞をされた背景には、周到な研究活動の体制づくりがうかがえました。

 続いて、「再度公園の様々なキノコ」の研究発表が行われました。男女数人の発表者が交替で説明し、時にはジョークも織り込んで、楽しそうでした。調査したキノコを4つのグループに層別したことから、それぞれについて分析・考察を深めていました。

 休憩時間を兼ねて、キノコ標本の展示説明です。キノコの色や香りなどを体験でき、参加者は食い入るように標本に見入っていました。一生懸命説明する生徒さんの笑顔が印象的でした。終盤には「六甲山のキノコの多様性」の研究発表が行われました。発表は初体験者が緊張しながら本番の準備をしました。研究活動の全貌を目にできました。

ユニークな地域貢献活動に期待

 キノコ研究というとマニアの領域だと想定していました。意外なことに興味を持たなかった生徒も研究活動の様々な局面で、自分の活躍どころを見出していました。受験勉強で明け暮れるだけでなく、自分の持ち味に目覚めて
いく学習であることを再認識しました。御影高校生が全国レベルで活躍することが、まさに地域貢献になると理解しました。皆さんのご活躍を期待しています。

講演の挨拶(顧問・河合祐介さん)

 御影高校環境科学部顧問として、色々なご縁を作り生徒たちとキノコの研究をしています。今日は雨。普通イヤと思いますが、生徒たちはキノコが生えるのでワクワクです。今日は生徒たちが発表、説明します。その姿を見てやってください。

講演内容

1.活動の概要(キノコ研究の意味;河合)

■授業ではない教育

 3年前から兵庫キノコ研究会(キノコ研)、県立人と自然の博物館(ひとはく)と連携し、再度公
園でキノコを観察し特徴を解析している。

 再度公園は標高約400m、明治の初めに植えたマツ林の人工林中心の公園だ。南の大龍寺近辺は手つかずの山林で、スダジイの極相林がある。北の洞川梅林周辺は落葉樹の森がある。多様な森林形態がキノコの多様性につながっている。

 こういう場所で観察し、ひとはく・三橋先生に標本作成、解析法を学ぶ。学校で標本を作成して
保存する。環境科学部生徒のほか、総合学習チーム、環境科学セミナー(授業)で色々な生徒が加わり、参加者は累計100人以上となった。研究成果も大切だが、その過程、例えば、前提条件で解析結果が変わる体験をすることも大切だ。

■他流試合が教育

 成果を外部で発表する。昨年度以来、COP10、共生のひろば、生態学会、総合文化祭全国大会などで、ポスターや口頭発表を行った。生態学会では最優秀賞、共生のひろばでは館長賞も
いただいた。

 発表では色々な批判を受け、次の課題を発見する。たくさんの知り合いができ、高校生同士の交流もしている。

■成果を市民に伝えるという教育

 市民向けに、ひとはくや御影公会堂での「六甲山のキノコ展」などを行った。今回の講演も六甲
山麓市民250万人が後ろに控えているという。
これらの活動を通じて、再度公園は六甲山においても、とても貴重な自然環境を持っていて、その自然環境を次世代に伝えることの大切さを市民に訴えかけることが教育になる。

2.再度公園で観察できる様々なキノコ

約100種のキノコ展示にあたり、高校生らしい感性のユーモアを交えながら説明してくれました。

■再度山のキノコは4タイプ

 2001~2009 年のキノコ研のデータを整理し、出現傾向のグラフを作った。これから、キノコを
A・B・C・Dの4グループに分けた。

A:9年間毎年見つかり、確認回数も多い、よく見られる種

B:毎年見つかっているが、季節に集中して発生する種

C:出現回数が少なく確認のバラツキが大きい一過性の種

D:確認できた年も総確認回数も少ない希少種

■発見しやすいキノコベスト3(Aグループ)

 第1位ヒトクチタケはキノコの裏に一つ穴がある。第2位はカワラタケ。瓦のように生える。エ
キスは壮健、健胃、高血圧やがん予防に効果。第3位ツガサルノコシカケは昔から薬剤に利用さ
れ、経年で大きくなる。Aグループは硬質菌、木を腐らせる木材腐朽菌、発生期間が長いのが特徴だ。例えるなら、毎日テレビで見る売れっ子芸人。誰かのような突然の絶滅はないと思う・・・。

■多様性を支える希少なキノコ(Dグループ)

 30万円の値が付くマンネンダケ、日本でも数例しか見られないセイタカノウタケ、六甲山では
よく見られるが日本全国では稀なシモコシなど貴重なキノコが生える。ワカクサウラベニタケは、
先輩が2年連続見つけた。採取後、緑から黄~ピンクに変化する。

 Dグループの希少種は種類が多く全体の多様性を支えている。一発芸人的だが、その役割は重要だ。

・・・・・・・キノコの展示・香りを楽しもうーコーナー・・・・・・・

クイズ!さて、何の匂いがするでしょうか?

①ニオイワチチタケ:250万市民みな晩ご飯で食べてると思います。このキノコは食べられません。
解答:カレー(チョコレート)

②アカカバイロタケ:朝ご飯で食べたことがあるんじゃないでしょうか。

解答:干魚が腐った臭いです。うぇーっとなります。

③マツオウジ:焙って香りを楽しむキノコです。秋の味覚といえば・・・

解答:マツタケ。まつやにの臭いもします。

④サンコタケ:きっと煩悩が払われる臭いがしますよ。顔がひゃっほーになります。

解答:とてもここには書けません。

3.六甲山のキノコの多様性に関する研究発表

 発表は初めての生徒がチャレンジしました。投げかけた質問に反応がなかったり、フロアからの質問に詰まったり、初陣らしい微笑ましいプレゼンになりました。皆通った道だ、ガンバレ!

■再度公園のキノコは1000~1300種と予測

 再度公園のキノコは何種類があるのか。2001~2008 年で、新しく見つけたキノコ種数が経年で減っていく様子を解析した。典型的な解析では予測種数は1055種となった。キノコ研、ひとはくの先生方と議論して1000~1300種と予測した。キノコ研は累積で約900種見つけており、この結果も妥当と考えた。兵庫県のキノコは2000種とされ、六甲山系でその約半分が見られることになる。

■Bグループのキノコは雨が好き

 雨が降ればどんなキノコが増えるか解析した。
キノコの出現傾向を分析し、さらに、雨とキノコの出現率の関係を見た。

 Aグループは、雨との関連が薄いが、B、C、Dグループは雨が降るほどキノコ出現率が上がった。特にBグループは雨との関連が大きい。これは生える季節が限られ、限られた期間で多く発生するので雨に敏感と考えられる。

■温暖化指標キノコ2種を提案

 雨に敏感なBグループのキノコが温暖化の指標にならないか調べた。温暖化を高温少雨(平均気温20℃以上、20日間の総降水量80mm以下)とし、対象となるキノコ17種から、次の3条件
で選んだ。

①24~28℃での選好度指数(発生したキノコがその条件を好むか嫌うかの指標)が0.5以上

②樹に生えるキノコは樹から水分を取るので除外

③発生期間が短いキノコは温度変化を反映しやすいので選択

さらに、判定困難や確認回数が少ないものを除き、アシナガイグチ、シロオニタケを温暖化指標になる可能性があるとして選択した。

質疑応答

Q:視力がいいと発見しやすいの?

 視力も必要だが生えそうな場所を予測できれば発見し易い。(キノコ研)小学校の運動会でわが子を見つけるようなもの

Q:指標キノコ発見の市民にとっての意味は?

 再度公園の気候の変化があることを皆さんに伝え、温暖化防止の必要性に気づいてもらう。

まとめ(河合先生)

 学校として通常の授業や進学指導の他に地域や社会への訴えかけを何かしていかなければいけない。キノコ研究はその一つ。なにより生徒が楽しそうにやってくれるので、私自身のライフワークとしてやっていきたい。

事務局より

 最初キノコマニアの集団かと思ったが、そうでなく、生物多様性の重要性を真剣にそしてユーモ
アをもって市民へ訴えかけていること、キノコ研究でも知識を得るだけでなく楽しみを見出しなが
らやっていることに共感した。

我々の六甲山の活動もそうありたいと願う。