市民セミナー報告書より
新シリーズの市民セミナーを開始
六甲山は春の陽気ですが、開花期は例年より1週間程度遅れています。
今年から市民セミナーは、4・6・8・10月の4回開催にし、午前中に周辺の自然体験を行うなど、各回を楽しく運営していきます。今回は新シリーズの第1回で通算109回
になります。「早春の六甲山の森」のテーマに、28名が参加しました。
小舘さんは2回目のご登場
講師をお願いした県立人と自然の博物館の研究員・小舘誓治さんには、第74回市民セミナー(2009年5月16日開催)で、「六甲山の森林植生と土壌」をテーマにご講演いただきました。現場でわかりやすく説明されるのが好評で、小舘ファンも増えました。今回は当会が景観整備している”まちっ子の森”で自然体験し、森づくりについての助言もお願いしました。事前に地域を下見されて、当日の説明を準備される熱心さに改めて敬服しました。
まちっ子の森での観察と講演
六甲山自然保護センターに集合して簡単なガイダンスを受け、早速、”まちっ子の森”に向かいました。途中の近畿自然歩道から植物観察が始まり、参加者の関心は高まりました。
”まちっ子の森”では、アセビ伐採調査の結果明るくなった雑木林で、樹木の状態の特徴などを解説していただきました。
ご専門の土壌調査では、コバノミツツバツツジの群落辺りで検土杖によって土壌サンプルを採って、土色帳での読み取りを指導していただきました。ササの根がからまってマット状になり、実生の発芽定着を妨げていることも知りました。北西にある崩落地にも足を延ばし、沢山のスミレとクロモジの大木という見所に感激しました。
昼食前にセンターに戻ってゆっくり食事をした後、観察したことの解説や、森林土壌についての実験の結果などの説明を受けました。
自然観察あり、土壌調査あり、森づくりのヒントありで、皆さんが充実した1日を過ごされた様子でした。
まちっ子の森づくりに生かしたい
主催者側の頭に中は、森林ボランティア活動を進めるという課題が大きく占めています。まちっ子の森や近畿自然歩道の保全・整備の方策や手がかりに関心が向いていました。小舘さんの様々なお話しから、森づくりの指針や景観整備の方向などが浮かんできました。みんなで大切にする六甲山の森づくりに前進します。ご指導に感謝します。
講演内容
ガイダンスのあと、「まちっ子の森」の尾根北側に行きます。そこで森と土壌の観察をし、尾根の北西側にある崩落地と比較します。
講演の挨拶(小舘 誓治さん)
県立人と自然の博物館の小舘です。3年前にも森林と土壌についてお話ししましたが、今回はファミリーも参加ということで下見もしてきました。簡単にガイドをしてさっそくまちっ子の森に入りたいと思います。
1.早春の六甲山の森林植生(ガイダンス)
■六甲山はツツジの仲間が多い
ラッパ状の花がつくツツジの仲間がたくさんみられ六甲山の特徴が出ている。アセビの花は終ったが、これからコバノミツバツツジ、5月にはスノキ、ネジキ、ドウダンツツジ、ヤマツツジなど
が咲く。ここのコバノミツバツツジは花芽のないものが多い。花芽ならば今頃は紫色の花びらが見えている。前年の7、8月頃に太陽が十分に当たらないと花芽がつかない。2 年前、アセビを伐採されたとのことなので、今後花芽が増えると思う。
■今朝見つけたクロモジの花束
尾根北西の崩落地でクロモジを見つけた。つぼみに近いが花芽をたくさん付けている。葉芽と花芽は形も違い、丸いのが花芽、尖っているのが葉芽。オシベ、メシベは1つの花芽に入って、花芽が2、3コ集まって花束になる。くすだまから花吹雪が出るようにパッと割れて花が咲く。クロモ
ジはクスノキの仲間で、いい香りがする。
■花がなければ樹肌を見よう
5月なら花も咲くが、今は早春といっても花はまだ多くない。その時は樹肌を観察するとよい。
西山家のマイウッド、ヤマザクラでは皮目が見られる。ここで呼吸=ガス交換をしている。だんだん幹が太くなると皮目がつながって線状になる。人の顔に見えないかな?
アカマツやコナラなど木の樹皮とその内側では成長速度が違うので樹肌に亀裂が生まれる。リョウブは樹肌が剥がれる順番で、その痕の色が異なる。
2.森林を構成している植物(現地観察)
■尾根上の土壌では植物は再生困難
尾根上はアカマツ、ヤマザクラ、リョウブ、ソヨゴ等の高木とツツジの仲間やタンナサワフタギ、コツクバネウツギ等の落葉低木から構成されている。ここの土壌を検土杖で採取し土色帳で土色を確認した。そのときの検土杖の最大の土壌貫入深は37cm であった。また深さ0~12cm、12~
26cm、26~37cm で土層の色が違っていた。深さ0~12cm の土層は黒褐色で腐植が多かった。特に深さ0~4cm のところには、ミヤコザサの地下茎や腐植でマット状になっている。ここに種子が落ちても定着しにくいと思われた。
■小規模崩落地を観察する
尾根の北西斜面には小規模の崩落地がある。地表はアカマツとコナラの落葉で薄く被われている程度。検土杖での最大の土壌貫入深は21cm で全体に赤っぽい色をして径が2mm 以上の礫が多い。尾根上でみられた黒褐色のマット状の部分はない。傾斜地で表層土壌が除々に下方に流れるのでササ類が入っていないのであろう。ここではシハイスミレやナガバモミジイチゴ、ツツジ類が生えている。尾根上に比べ土壌が浅いがいろんな植物が入りやすそうだ。
■林縁をなす自然歩道沿いの植物
林の端には、ツル植物やトゲのある植物が多い。
袖群落とかマント群落といわれる。トゲがあって、「森に入るなよ」という雰囲気を醸し出す。典型
はニガイチゴである。自然歩道の山側法面はササ刈りをしてあるので、ニガイチゴを始め、コアジサイ、イヌツゲなどの多様な潅木が多い。チゴユリなども芽を出してきている。タンナサワフタギ
は白い花を沢山つける。六甲山はタンナサワフタギがあるが、日本海側ではサワフタギである。
3.森林土壌の特徴、花崗岩質土壌の特徴
自然保護センターに帰ってきました。土壌をみていくと地形と関係があり、どういう生育環境か
が分かるということをお話しします。
■再生植物は一様でなくパッチ状に発生した
アカマツの再生条件を見極めるため、再度山で実験的に20m 角の区画を皆伐し、表土5cm と木の根を除去した。その中に10m角の調査区を取り1m×1m の小方形区を作った。
6年後、小方形区で一番多かった植物から、アカマツ優占区、ヌルデ優占区、ニガイチゴ優占区、草本種優占区に分け、それぞれの優占区での小方形区あたりのマツ個体数は、アカマツとヌルデ優占区で多く約8 本、ニガイチゴと草本種優占区では少なく2~4本だった。
■ヌルデ優占区ではアカマツの成長が著しい
アカマツの地際直径と樹高のグラフで解析するとヌルデ優占区では、アカマツの伸びが大きかった。場所によりアカマツの定着や生育の仕方が違うのが分かった。そこで土壌の違いに着目した。
■植物に影響している土壌環境は?
表層の土壌懸濁液のpH と導電率(栄養分が多いことを示す)を調べると、アカマツ優占区はpHがやや高めの酸性で導電率が低め、一方ヌルデ優占区はpH がやや低めの酸性で導電率はやや高かった。さらにヌルデ優占区ではアカマツ優占区よりも礫量が少なく最大毛管容水量が多い。このことはヌルデ優占区が水持ちがよいことを示していて、アカマツだけでなく他の植物種の出現頻度は高くなっていた。
10m 角の狭いエリアだが、雨で土壌が流れて砂っぽくなる所と、土壌が僅かでもたまって粘土っぽくなり水もちがよい所が出てきて、それにより侵入してくる植物の種類もかわる。六甲山地は乾燥しやすい花崗岩地なので一般に土壌中の有機物や粘土分を多くして水持ちの良い土壌にする。
まちっ子の森の尾根上の平らな所と崩落地を比べると、尾根上はササ類の地下茎、腐植が多いマット状の土層が厚い。一方、崩落地はそれがなく土壌が全体に明るい色で礫っぽい。
尾根上の所は黒っぽい色の土層が比較的厚いので栄養分は多そうだが、新たな植物が定着し
やすいかと言うと疑問である。崩落地は雨で細かい土壌粒子が下方に流され易く、礫が多い土壌になり易い。腐植が多い土層の厚さだけでなく、地形や土壌環境を考え景観設計を検討する
必要がある。
質疑応答
■ここの森の再生にはマット状土層を除くの?
どういう景観にしたいかにより違う。例えば松林にしたいなら剥がすのも一手である。
■まちっ子の森で細かい土壌調査は必要?
景観設計により違う。素人発想でよいので分かりやすい視点で仮説設定するとよい。
まとめ(小舘さん)
天気がよかったのが一番です。ファミリーが参加ということで参加者に応じた見せ場の設定をい
ろいろ考えました。室内より外で現場をみながらお話しし楽しく自然を体験していただくのがベス
トです。また、ひとはくにもぜひおいでください。
事務局より
腐葉土が多いばかりでは若木は育たない、崩落地の礫の多い所に多様な植物が入ってくる、森は土壌の変化でダイナミックに動いている。植物名だけでなく、変化する森の動きを感じ取りたい。